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語り:柘植 忠義さん
(石見町 明治41生・昭和59年収録) |
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この井原川は、昔からきれいな川であちこち淵もあり、みんなが足を洗ったり、暑いときには水浴びに行ったり、魚を捕ったりして遊んでいる。
しかし、昔は毎年、子どもがエンコウにきも肝を抜かれて困っていた。
ある日のこと、樋口谷の方の古い家の馬を洗いに連れて行ったところ、淵に入っていた馬が急にとんで家へ帰ってしまった。その馬の尻尾の先に何かが下がっている。落としてみると、それがエンコウだった。
人々は寄ってたかって、
「毎年、子どもが殺されるから、こらしめてやろう」
「いや、たたき殺せ」
「火あぶりにしてやれ」。
このようににぎやかな状態だった。
するとそこの家のおじいさんが出てきて、
「まあ、みなの衆、待て待て、このエンコウを殺したところでたいしたことはない。次々子どもがエンコウにやられてもつまらんことだから、こんどは一つわしに任してくれ」と言う。みんなも、
「そりゃ任そう」と言ったので、おじいさんはエンコウに、
「みんなはおまえたちが毎年、子どもを殺すので怒って、おまえを殺す言うんじゃが、わしは何とか助けてやりたいんじゃ。その代わり、これからは井原川ではエンコウに捕られたちゅう者がおらんようにしちゃどうか」と話したら、
「そりぁもっともなことです。これまでは悪いことをしましたが、もう二度と井原川では子どもを殺しません」とエンコウも約束をした。
それ以来、井原川ではエンコウによる被害はなくなったので、みんなは喜んで、
「じいさんもえらいが、エンコウもよう約束を守ったもんだ」いうて現在まで伝えてきているのだ。
だから、おまえたちもいくら水浴びしてもいい、魚釣りに行ってもいい、しかし、川はきれいにしておかぬとエンコウが困るいうことになっているんだ。
それぽっちり。
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