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萩好きがこぞって通う、萩焼「大屋窯」を訪ねて。

当メディアでたびたび話題に上がる、萩焼の窯元「大屋窯」。例えば編集者の山本梓さんが大屋窯の器を自宅で愛用していたり、ゲストハウス「ruco」の塩満直弘さんが萩のお気に入りの場所として挙げていたり。そんな萩好きがこぞって通う大屋窯が、より訪れやすく進化したと聞いて伺いました。

大屋窯までは萩・石見空港からレンタカーで1時間ちょっと。1969年に濵中月村さんによって開かれた萩焼の窯元で、現在は気鋭作家として活躍する濱中史朗さんが2代目の代表。さらにジュエリー作家の濱中孝子さんら、ご家族やゆかりあるアーティストの集う場所になっています。

そんな大屋窯に、2024年にショールームが完成しました。以前から陶器の販売は行っていましたが、さらに広々としたスペースでゆっくり作品に触れて、購入できるように。窯元への訪問に敷居の高さを感じていた方もいるかもしれませんが、もはや心配ご無用。営業日であれば予約不要で、誰もが気軽に訪ねられます。営業時間は大屋窯ホームページでご確認を。

ショップの中を見てみましょう。1階ではまめ皿や箸置きなどの小物から日常使いの器、陶器のアクセサリーなどが並び、濱中孝子さんのジュエリーも展示されています。日によって料理教室などのイベントが開かれることも。もちろん、作家さん本人に会えるチャンスもあります。

階段を上がるとギャラリースペース。時期ごとにテーマを変えた作品展示が楽しめます。2階は濱中史朗さんの作品が並ぶエリアで、1階と雰囲気がガラリと変わります。スカルやスタッズなどをモチーフに取り入れた現代的な器は、武骨ながら緊張感のある佇まい。県外から訪れる史朗さんのファンやコレクターも多いそうです。

ショールームに訪れたなら、大屋窯の空間にも注目を。萩の自然の美しさにより添うように佇む家屋や、陶芸作品や木や鉄などのオブジェが立ち並ぶ庭や空間の設え……こうした風景は初代の濵中月村さんが、約50年もの時をかけて作り上げてきたものです。

この日はタイミング良く、月村さんご本人にも会えました。聞けば、高台に建てられたアトリエ兼自宅は、月村さん自身による設計。萩を一望できる庭には「Arrow(道標)」と名付けられた月村さんによる美術作品が並びます。30年ほど前に手積みで修復された石垣があり、セルフビルドの倉庫があり、朽ちた巨木や錆びた鉄が飾られていたり……空間の隅々まで自由な創造力がいきわたっています。

「この家を建てた時に、拾ってきた銀杏を庭に植えました。それが今、こんなに大きな木になりました」と月村さん。自然と寄り添いながらも、人間の自由な創造力がいきわたった庭や建物そのものが、月村さんの作品なのかも。そう言うと「すべてが遊びですから」と月村さんは笑います。

大屋窯には丁寧に作られたものがたくさんあります。焼き物、建物や空間、銀杏の樹もそう。ここにあるのは、長い時間をかけて作られた美しさです。忙しい日常を離れ、スピードや効率ではない、手仕事の豊かさに触れること。そうした創造的な時間を持てることが、この場所の大きな魅力なのかもしれません。

長居を詫びてお暇しようとすると、「あら、もっとのんびりしていけばいいのに。いつでもまた来てね」と月村さんの奥さま、はるよさん。萩好きたちがこの場所に通う理由が、ちょっとわかった気がします。

展示作品も窯の風景も季節ごとに変わりますから、大屋窯には何度も訪れる楽しみがあります。通いたい場所があって、会いたい人がいれば、旅はもっと豊かになるはずです。

INFORMATION

大屋窯

山口県萩市椿905
https://www.ooyagama.com

Photography Yuri Nanasaki
Edit & Text Masaya Yamawaka

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