EDITOR'S PICKS 編集部のおすすめ

旅先で、何をするか。定番は、美食と観光でしょうか。
しかし当メディアは「誰も知らない旅をしよう」をメッセージに掲げ、萩・石見エリアのまだ見ぬ旅のプランを紹介してきました。であれば、ベタな観光旅行はむしろ野暮。
ということで、今回のプランは「カバンを作りに、旅に出る」というものです。どうでしょう、気になりませんか。
旅の舞台は、萩・石見空港から車で一時間ほどにある浜田駅。ある日、海鮮で有名なこの港町で、筆者は時間を持て余していました。
昼は「ケンボロー」のとんかつ、夜は「日本酒酒場 ともじ」で日本酒かな、などと妄想しながら、時間はまだ午前中です。あてもなく散策していると、よさそうなカフェを見つけました。

浜田にこんないい感じの場所があったんですね。看板によると名前は「BAR AND INN USHICHI」。さっそく入ってみましょう。

コーヒーを飲んで本でも読んで、旅の優雅な時間を満喫しよう。そう思い席を探していると、奥に中庭らしき空間が見えます。お店の方の「入って見ていただいて大丈夫ですよ」のお言葉に甘えて奥の方へ。

あれ、中庭には席はなく、いい感じのドアが。入ってもいいのでしょうか……勇気を出して開けてみると、驚きました。

ここは、一体何なのだろう。困惑していると、「よければ見て行ってください」と、声がかかります。
案内してくれたのは店主の三浦卓也さん。自身がミシンを操り、ここでバッグやポーチなどの制作を行なっているそうです。どうやら、ここはハンドメイドのアウトドアギアの工房兼ショップのようです。

聞けば、三浦さんは2009年から「ハリヤマプロダクション」という名前でアウトドアギアのブランドを運営しているといいます。

ブランドの始まりは三浦さん自身が、地元・島根の山や自然での活動が好きだったこと。自分用に作っていたバッグやポーチなどが評判を呼び、友人たちの依頼に応える形で制作を請け負うように。しだいに、現在のようにバックパックやトートバッグ、カメラバッグなど、さまざまなアイテムを作るようになったといいます。
つまり、島根の自然を楽しむために生まれ、島根の自然を愛する人たちの間で磨かれてきたメイドイン島根のアウトドアギアがハリヤマプロダクション。その工房兼ショップがこちらの場所、ということですね。

さらに詳しく聞くと、三浦さんのものづくりは「UL」というアメリカ発祥の文化の影響を受けているそうです。
ULとはUltra Light(ウルトラライト)の頭文字をとった言葉。非常にざっくりと言えば、軽量化に特化した装備で、自然の長距離の道を歩く、というもの。バックパッキングなどアウトドア文化を背景に、全長約4,265kmのPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)などのロングトレイルを舞台に、1990年代のアメリカから発展しました。

道具と身体の関わり方をラディカルに考え直し、自然をより自由にダイナミックに楽しむ。そういうハイカーたちの思いを受けて発展した、という歴史もなんだか素敵。
気になる人は、三浦さんもお勧めも『ウルトラライトハイキング』(土屋智哉、ヤマケイ文庫)を読んでみてください。日本でのULの入門にして決定版的1冊だそうです。
話を戻すと、ULには、「Make Your Own Gear」つまり、「自分の道具を自分でつくろう」という考え方があるそうです。身体つきや活動のスタイルは人それぞれですから、求める道具も自ずと違ってくる。そのため、究極的には自分で自分のための道具を作っていく、という発想ですね。

そんなMake Your Own Gearの考え方をベースに、島根の自然で得た経験をもとに、ハンドメイドでULのギアを作っているのが、三浦さんということですね。
手仕事ですから、生産量に限りがあります。いわゆる量産品や既製品とは違い、すべてこの工房で手作業で作っているのですから。
だからこそ、使う人の暮らしと身体に合った道具を丁寧に作っていくことができる。同一規格で量産される商品では難しい、ものとの付き合い方や考え方が、この場所では大切にされているように、筆者には感じられました。
と、ここまで話を聞いて、思いました。ULの考え方って旅をより自由に楽しむにも、いいのでは……?
ということで、ダメ元で聞いてみました。都市でも使えるバッグを仕立ててもらうことはできるのでしょうか?
できればシンプルなデザインで。軽くて長持ちするトートバッグが欲しいのです。重たいPCを入れるので頑丈なもの。旅でも嵩張らない気軽さもほしい……。
そう三浦さんに尋ねると、「もちろんできますよ」と快諾。その場でデザイン画を描きはじめます。
聞けば、この工房では、オーダーメイドのバッグの制作を受け付けていて、生地や形やデザインから、相談しながら作ってくれるとのこと。目の前で理想が形になっていく。これは、楽しい。


数週間後。東京に戻った筆者のもとに、完成しました、と三浦さんからの連絡が。楽しみに待っていました。そして受け取ったバッグがこちらです。

自分のライフスタイルと体つきから導かれたデザインだけに、身体の一部のように馴染みます。
しかし、人は欲深いもので、使っているうちに気分も変わります。筆者は再び浜田を訪れた際に、お店に立ち寄り「ストラップの色を変えられますか?」と、これまたダメ元で相談してみました。
すると、今回も快諾。なんとその場で、取り替え用のストラップを作ってくれました。

このように、わがままを言っているうち、気づけば、旅先に行きつけの店ができました。バッグの調子をみてもらい、カスタムしたり、ケアしたり。旅先に通える場所があるって、楽しいものです。
筆者としては、いつかアウトドア用のバックパックの制作も頼んでみたい。それを背負って石見の山を歩いてみたい。そう言うと「おすすめの場所がありますよ」と三浦さん。

「有福温泉のあたりに、いい低山があるんです。本明山(ほんみょうざん)という場所で、1時間くらいで登れて日本海側が一望できます。帰りに温泉に入ってくると、最高ですよ」
こうして、石見に行きたい場所がもうひとつ増えました。
さて、こちらのお店の場所をお教えします。名前を「LAAVU(ラーヴ)」と言います。USHIICHIというカフェの奥にあります。ちょっと秘密っぽい場所ですが、勇気を出して、扉を開いてみてください。

Photo Yuri Nanasaki
Text Masaya Yamawaka





