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無人駅の隣で海を眺める静かなカフェにボカロの聖地。全国でも珍しいクラフトビールを造る駅……山陰本線には、わざわざ降りたくなる、無人駅があります。羽田から萩・石見空港へ飛び、バスで益田駅へ。山陰本線に乗り換えて、途中下車の旅に出ました。

折居駅 / 聖地と呼ばれる踏切と、海の見えるカフェへ
益田駅から山陰本線に乗り、5駅。折居駅で列車を降ります。ホームの向こうには、海。そして、鮮やかな青で塗られた駅舎が見えます。

構内には、“聖地巡礼”の記録を綴ったノートが数冊。ページをめくると、ここを訪れた人たちの言葉がびっしりと書き連ねてあります。
駅のすぐそばにある踏切は、みきとPによるボーカロイド楽曲「少女レイ」のミュージックビデオに登場する風景のモデルとして知られています。YouTubeで数千万回以上再生されるほどの名曲で、その世界観を求めて全国からファンが訪れているそうです。
その踏切へ向かうと、遮断機の向こうに線路と海が、近い距離で並んでいます。

しばらく景色を眺めてから、駅舎の方へ戻ります。駅舎のすぐ隣にあるのが古民家を改装したカフェ「Gallery & Cafe FUN」。
1階は落ち着いた雰囲気です。2階席に案内され、階段を上がった瞬間、目の前に海が広がります。視界いっぱいに、青。水平線まで、遮るものは何もありません。
どの席に座ろうか迷っていると、「私も毎日眺めてますよ。贅沢すぎるって言われますけどね」と店主の田中さん。「都会から来た若い方が、この景色を見て『癒やされる』と言って、ずっと海を眺めていることもあるんです」。確かに、この海を前にすると、ただぼんやり眺めていたくなる気持ちもわかります。
ここで出されるのが「ヨシタケコーヒー」。浜田市出身で、世界で初めて缶コーヒーを開発した三浦義武氏の抽出法を受け継ぐコーヒーです。二重の布ネルを使い、ゆっくりと時間をかけて抽出します。(※ヨシタケコーヒーは前日までの予約制です)

このカフェには、いろんな旅人が立ち寄るのだそうです。リヤカーを引いて歩く旅人や、以前には「熊本からシーカヤックで来ました」と、水を求めて空のペットボトルを持って現れた人までいたのだとか。
「韓国や台湾からも来られます。各駅停車に揺られて、この駅を目指してきてくれるんですよ」。踏切を目当てに来た人が、そのまま2階席で数時間を過ごしていくことも。
列車は1~2時間に1本。次の列車を待つ時間が、ここでは海とコーヒーのための時間になります。

INFORMATION
Gallery & Cafe FUN
住所:島根県浜田市西村町1069-1
Instagram:https://www.instagram.com/galleryandcafefun/
波子駅 / 無人駅で醸造されるビールを飲みに行く
折居駅から浜田駅で普通列車を乗り継ぎ、約1時間。波子駅のホームに降り立つと、駅舎の窓に「CRAFT BEER」の文字が見えます。ローカル線の無人駅で、ビールが造られている。そんな場所は、全国でもここだけだそうです。


もともと1日の利用者が40人ほどだった波子駅。江津市がJRから駅舎を譲り受けたものの、活用の糸口がつかめずにいました。テレビ番組でその現状を発信したところ、手を挙げたのが、地元でビール醸造をしていた「石見麦酒」の山口さん。移転先を探していたタイミングとも重なり、この駅に醸造所ができました。

山口さんは、もともと日本酒の杜氏を目指していたといいます。
「日本酒は新規の免許が取れなくてね。でもビールなら、小さい設備でも地域の素材を活かした面白いことができると思ったんです」。
2015年、江津市のビジネスプランコンテストで大賞を取ったことをきっかけに「石見麦酒」を立ち上げました。当初は別の拠点で生ビールを提供していましたが、駅舎への移転を機に、「缶ビールを開けて飲む」角打ちスタイルへと変更。それは、列車の待ち時間や、駅を通りかかる人の動線を考えた結果です。
次の列車を待つあいだに一杯。すすめられた「ベルジャンホワイト」は、浜田産の麹とゆずを使ったビールです。「これ、女性に人気なんですよ」と山口さん。
白く濁ってクリーミーで、ひと口飲むとゆずの爽やかさがすっと広がります。苦みはほとんどなく、思っていたよりも軽やか。するりと喉を通ります。「ここで飲んでいると、来る人が結構話しかけてくるんですよ。まあ、僕も勝手に喋りますけどね」。

海外からの旅行者がここでビールを飲んでいると、ウェイティングバー代わりに一杯ひっかけてから飲み屋へ出ていく地元の人と出会ったり。浜田からランニングでやって来て、ビールを飲み、列車で帰る女性たちもいるのだとか。「罪悪感ゼロですね」と山口さんは笑います。
かつて静かだった無人駅が、山口さんのビールをきっかけに、国籍も年齢もバラバラな人たちが立ち寄る場所に。今では全国からビールづくりを学びに来る人もいるのだそう。
ビアイベントを開いたり、駅で偶然出会った人と乾杯したり。ビールをきっかけに、お喋りが弾む雰囲気が自然と生まれています。「お酒は、楽しく飲まないとね」という山口さんの言葉通り、ここでつくられているのはビールだけではなく、人が集まり、時間を過ごすための空間でした。

INFORMATION
石見麦酒(いわみばくしゅ)
住所:島根県江津市波子町イ844-6(JR波子駅構内)
Instagram:https://www.instagram.com/iwami_bakushu/
Photography / Teppei Sasaki
Text / Saori Kano














