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高山都さん・安井達郎さんの萩・石見旅
「津和野のお茶と歴史」前編

モデル 高山都 / 安井達郎

島根県西部の城下町・津和野には、観光情報だけでは伝わらない、静かな時間の流れがあります。たとえばそれは、お茶を淹れるおだやかな気分だったり、道具を扱う丁寧な所作だったり。高山都さん・安井達郎さんとそんな津和野の一日を旅します。

羽田空港から約90分で萩・石見空港へ。東京から意外に近く訪れやすいんです。

高山都
1982年生まれ。モデル、俳優、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。料理やうつわなど、日々の暮らしを発信するInstagramも支持を集める。趣味は料理とマラソン。著書に『高山都の美食姿』シリーズ(双葉社)など。

安井達郎
1988年生まれ。モデルとしてCMや広告、雑誌などで活躍。映像作家としてnever young beach、indigo la EndなどのMV監督を務める。近年はYouTubeでのVlog発信に加え、写真家としても活動中。

津和野のシンボル「太皷谷稲成神社」にお参り

萩・石見空港から津和野までは車でおよそ1時間。「石見は初めてですが、風景がきれいですね。オレンジの瓦屋根が印象的です」と達郎さん。都さんも初めての石見旅です。
 「民藝が好きで、器や焼き物を見に何度も山陰には来ていますが、石見をめぐるのは初めて。すごく楽しみです」(都さん)
まず立ち寄ったのは太皷谷稲成神社。高台から津和野の町を見守る象徴的な存在です。ちなみに「稲荷」ではなく「稲成」と書く神社は、全国でもここだけ。「成」の字には、願いが成るように、という思いが込められているとか。

この日は車で本殿へ。約千本の鳥居をくぐりながら歩いて訪ねることもできます。ふたりの背後に広がるのが、津和野町の街並み。人口およそ6000人。山あいにひっそり佇む、隠れ里のような城下町です。
ふたりが手にしているのは、お供え用の油揚げ。駐車場の近くで買えます。
旅の安全を祈願して、出発。

実は今回の津和野旅にはテーマがあります。それは「お茶」。なぜ津和野でお茶なのか。答えは、次の場所で。

江戸から続く津和野の伝統「ざら茶」をいただく

訪ねたのは、津和野ならではのお茶文化を今に伝える「香味園 上領茶舗」。創業はおよそ100年。町とともに歩んできた老舗です。

2023年にこちらの建物へ移転リニューアルした「上領茶舗」。カフェスペースも加わり、町の人も旅人もふらりと立ち寄れる場所に。

こちらの名物が「ざら茶」。名前を聞いても、ぴんと来る人は少ないかもしれません。というのも、この「ざら茶」、石見地方でも津和野だけで、江戸時代から日常的に飲み継がれてきた、ローカルのお茶なのです。

「津和野では、このざら茶が 、日常のお茶なんです」と、3代目の瑠美さん。フランス人の旦那さんとふたりで店を切り盛りしています。

左が「ざら茶」。香ばしくてすっきりした飲み口。右がざら茶とハーブをブレンドしたフレーバーティー「ローズブレンド」

ざら茶の原料は、「カワラケツメイ」という日本や朝鮮半島の一部で自生するマメ科の植物で、漢方では生薬としても知られています。
津和野では「健康茶」として江戸時代から親しまれ、今でも家庭では緑茶よりポピュラーな存在。毎日の食事などでも飲まれている、津和野の暮らしを象徴する風味です。

「カフェインレスなのも嬉しいね」と都さん。

こちらの上領茶舗で人気なのが、ざら茶とハーブや漢方をブレンドしたフレーバーティー。さまざまなブレンドを開発し、現代のライフスタイルによりそう、新たな楽しみ方を提案しています。
 
背景にあるのは夫・アドリアンさんのルーツであるフランスのお茶文化。フランスには、ドライハーブやスパイスなどのカフェインを含まないお茶を楽しむ「ティザンヌ」という風習があるそう。そんなティザンヌと津和野のざら茶が出会い、こちらのオリジナルのブレンドティーが生まれたのです。

上領茶舗では、そんなざら茶のオリジナルブレンドづくりの体験も行っています。ということで、さっそくふたりも体験。「ハーブによって効能が違うので、迷いますね」と、都さんはひとつひとつ丁寧に選んでいきます。達郎さんも、言葉少なに、香りに意識を向けている様子。

ベースとなるざら茶に、ハーブや生薬の中から好みのものを選びます。

香りを確かめ、効能を学びながら好みのブレンドを探ります。

リラックス作用のあるクロモジ、甘い香りのリンデンなどをブレンド。

ブレンドが決まったら、実際にお茶を淹れて味を確認します。

「おいしいね。体にすっと入ってくる感じがする」と都さん。つくったのはティザンヌでも定番のハーブ「リンデン」を使った、リラックスできるお茶。達郎さんは胃腸の調子や花粉症など体調のお悩みをケアするブレンド。
「体調と効能をベースにブレンドを選んだのですが、自分が好きな味になりました。身体が求めてるのかな」と達郎さん。完成したブレンド茶は、そのままお土産に。

歴史的建築で旦那衆の嗜み「煎茶道」を体験する

続いて向かったのは、城下町に佇む町屋「分銅屋」。江戸時代から続く商家で、建物は築約170年。ペリーが黒船で来航した年に建てられたというから驚きです。

町屋「分銅屋」。慶長年間(1596年〜)頃から続き、江戸時代には津和野藩の「八人衆」の一人に認定された名家。もとは和ろうそくやびんつけ油などを製造販売する商家。

「昔から、津和野では煎茶と謡曲が旦那衆のたしなみです」と、和装で迎えてくれたのは分銅屋の現当主・椿さん。現在の分銅屋では、商店として栄えた歴史的な建築の一室で、一家に伝わる貴重な茶道具による「煎茶体験」ができます。

まずは椿さんに作法を教わったら、次に自分で煎茶を淹れてみます。畳に座り、茶葉を量り、そっと湯をそそぐ。お茶の入るかすかな音が空間を満たしていきます。

「煎茶の最後の一滴を指して“甘露”とも言いますが、ここが最もおいしいんです」と椿さん。

お茶というと、格式張った印象を持つ人も多いかもしれません。けれど、こちらで体験できる「煎茶道」は、いわゆる「茶の湯」や「抹茶道」とは違ったもの。楽しむための作法はあっても、堅苦しい緊張感はありません。
 
というのも、津和野の煎茶は町の旦那衆が趣味の骨董を愛で、おしゃべりに花を咲かせる場として発展し、受け継がれる文化だそう。社交的な雰囲気の中で、のびのびと楽しんでいいのです。

淹れた煎茶をいただきます。お出汁のような深いうまみある味わいに感動。

「丁寧に道具を扱い、手間を楽しむ。とても豊かな時間だなって感じます。何かと効率が重視される現代だからこそ、手数がかかることの喜びに心を向けることは大切だなって、改めてそう感じました」(都さん)

器は100年以上前の柿右衛門。床の間に若冲の画。江戸から続く名家だけあり、椿さんのコレクションは圧巻。都市の喧騒から解放され、美しいものに囲まれ、ちいさな所作に心を向ける。このおだやかな時の流れこそが、煎茶体験の醍醐味かもしれません。

「建物や道具、文化や歴史など、代々受け継ぐものを今も大切に手入れしながら暮らしていらっしゃって、すごくあこがれます。ものを大切にすることって、シンプルだけど今の時代に重要なことですよね」(都さん)

寒山拾得図。伊藤若冲の作です、と椿さん。
お茶とあわせる羊羹。山口県の「大内塗」の器でいただきます。

椿さんが選んだ代々伝わる煎茶道具。使用後は陰干しするなど、丁寧な手入れが欠かせないそうです。

江戸の町民文化を今に伝える庭園。当時津和野の町屋では中庭を設けることが一般的でした。登録記念物に指定。

お茶のあとは津和野の町人文化や歴史を学ぶ「町屋体験」の時間。写真は江戸時代から伝わる大福帳。水に濡れても破れないという丈夫さに定評のある津和野の和紙でつくられています。中には当時の借金やツケの記録も。

この記事で訪れた場所

香味園 上領茶舗

住所:島根県鹿足郡津和野町後田ロ263
TEL:0856-72-0266
https://www.tsuwano-zaracha.com

分銅屋

住所:島根県鹿足郡津和野町後田ロ190
TEL:0856-72-0021
※煎茶体験は事前予約制。体験料は1名5,000円(税込み・町屋体験を含む)。
※町屋体験のみは1名3000円(税込み)。当日2時間前までの予約制。
※煎茶体験・町屋体験とも中学生以上が対象。

Photography Yuri Nanasaki  
Edit&Text Masaya Yamawaka

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