島根県西部の城下町・津和野には、観光情報だけでは伝わらない、静かな時間の流れがあります。たとえばそれは、お茶を淹れるおだやかな気分だったり、道具を扱う丁寧な所作だったり。高山都さん・安井達郎さんとそんな津和野の一日を旅します。

高山都
1982年生まれ。モデル、俳優、ラジオパーソナリティなど幅広く活動。料理やうつわなど、日々の暮らしを発信するInstagramも支持を集める。趣味は料理とマラソン。著書に『高山都の美食姿』シリーズ(双葉社)など。
安井達郎
1988年生まれ。モデルとしてCMや広告、雑誌などで活躍。映像作家としてnever young beach、indigo la EndなどのMV監督を務める。近年はYouTubeでのVlog発信に加え、写真家としても活動中。
津和野のシンボル「太皷谷稲成神社」にお参り
萩・石見空港から津和野までは車でおよそ1時間。「石見は初めてですが、風景がきれいですね。オレンジの瓦屋根が印象的です」と達郎さん。都さんも初めての石見旅です。
「民藝が好きで、器や焼き物を見に何度も山陰には来ていますが、石見をめぐるのは初めて。すごく楽しみです」(都さん)
まず立ち寄ったのは太皷谷稲成神社。高台から津和野の町を見守る象徴的な存在です。ちなみに「稲荷」ではなく「稲成」と書く神社は、全国でもここだけ。「成」の字には、願いが成るように、という思いが込められているとか。



実は今回の津和野旅にはテーマがあります。それは「お茶」。なぜ津和野でお茶なのか。答えは、次の場所で。
江戸から続く津和野の伝統「ざら茶」をいただく
訪ねたのは、津和野ならではのお茶文化を今に伝える「香味園 上領茶舗」。創業はおよそ100年。町とともに歩んできた老舗です。

こちらの名物が「ざら茶」。名前を聞いても、ぴんと来る人は少ないかもしれません。というのも、この「ざら茶」、石見地方でも津和野だけで、江戸時代から日常的に飲み継がれてきた、ローカルのお茶なのです。
ざら茶の原料は、「カワラケツメイ」という日本や朝鮮半島の一部で自生するマメ科の植物で、漢方では生薬としても知られています。
津和野では「健康茶」として江戸時代から親しまれ、今でも家庭では緑茶よりポピュラーな存在。毎日の食事などでも飲まれている、津和野の暮らしを象徴する風味です。

こちらの上領茶舗で人気なのが、ざら茶とハーブや漢方をブレンドしたフレーバーティー。さまざまなブレンドを開発し、現代のライフスタイルによりそう、新たな楽しみ方を提案しています。
背景にあるのは夫・アドリアンさんのルーツであるフランスのお茶文化。フランスには、ドライハーブやスパイスなどのカフェインを含まないお茶を楽しむ「ティザンヌ」という風習があるそう。そんなティザンヌと津和野のざら茶が出会い、こちらのオリジナルのブレンドティーが生まれたのです。
上領茶舗では、そんなざら茶のオリジナルブレンドづくりの体験も行っています。ということで、さっそくふたりも体験。「ハーブによって効能が違うので、迷いますね」と、都さんはひとつひとつ丁寧に選んでいきます。達郎さんも、言葉少なに、香りに意識を向けている様子。

「おいしいね。体にすっと入ってくる感じがする」と都さん。つくったのはティザンヌでも定番のハーブ「リンデン」を使った、リラックスできるお茶。達郎さんは胃腸の調子や花粉症など体調のお悩みをケアするブレンド。
「体調と効能をベースにブレンドを選んだのですが、自分が好きな味になりました。身体が求めてるのかな」と達郎さん。完成したブレンド茶は、そのままお土産に。
歴史的建築で旦那衆の嗜み「煎茶道」を体験する
続いて向かったのは、城下町に佇む町屋「分銅屋」。江戸時代から続く商家で、建物は築約170年。ペリーが黒船で来航した年に建てられたというから驚きです。


「昔から、津和野では煎茶と謡曲が旦那衆のたしなみです」と、和装で迎えてくれたのは分銅屋の現当主・椿さん。現在の分銅屋では、商店として栄えた歴史的な建築の一室で、一家に伝わる貴重な茶道具による「煎茶体験」ができます。

まずは椿さんに作法を教わったら、次に自分で煎茶を淹れてみます。畳に座り、茶葉を量り、そっと湯をそそぐ。お茶の入るかすかな音が空間を満たしていきます。

お茶というと、格式張った印象を持つ人も多いかもしれません。けれど、こちらで体験できる「煎茶道」は、いわゆる「茶の湯」や「抹茶道」とは違ったもの。楽しむための作法はあっても、堅苦しい緊張感はありません。
というのも、津和野の煎茶は町の旦那衆が趣味の骨董を愛で、おしゃべりに花を咲かせる場として発展し、受け継がれる文化だそう。社交的な雰囲気の中で、のびのびと楽しんでいいのです。

「丁寧に道具を扱い、手間を楽しむ。とても豊かな時間だなって感じます。何かと効率が重視される現代だからこそ、手数がかかることの喜びに心を向けることは大切だなって、改めてそう感じました」(都さん)
器は100年以上前の柿右衛門。床の間に若冲の画。江戸から続く名家だけあり、椿さんのコレクションは圧巻。都市の喧騒から解放され、美しいものに囲まれ、ちいさな所作に心を向ける。このおだやかな時の流れこそが、煎茶体験の醍醐味かもしれません。
「建物や道具、文化や歴史など、代々受け継ぐものを今も大切に手入れしながら暮らしていらっしゃって、すごくあこがれます。ものを大切にすることって、シンプルだけど今の時代に重要なことですよね」(都さん)

この記事で訪れた場所

香味園 上領茶舗
住所:島根県鹿足郡津和野町後田ロ263
TEL:0856-72-0266
https://www.tsuwano-zaracha.com

分銅屋
住所:島根県鹿足郡津和野町後田ロ190
TEL:0856-72-0021
※煎茶体験は事前予約制。体験料は1名5,000円(税込み・町屋体験を含む)。
※町屋体験のみは1名3000円(税込み)。当日2時間前までの予約制。
※煎茶体験・町屋体験とも中学生以上が対象。
Photography Yuri Nanasaki
Edit&Text Masaya Yamawaka















