神楽には宮廷で演じられる「御神楽」と民間の社中で演じられる「里神楽」があり、「里神楽」はさらに出雲流神楽・伊勢流神楽・獅子神楽・巫女神楽などに分類されます。島根の神楽は出雲流神楽の系統に属するもので、出雲神楽・石見神楽・隠岐神楽の3種類に大別され、それぞれ独自の発展を遂げて今日に至っています。出雲流神楽は、さらに中四国、九州や全国の神楽に影響を与え、日本の神楽の一大勢力を築いています。
石見神楽は、石見地方(島根県西部)の気質にあった『勇壮で華麗な舞』として現在に引き継がれてきました。出雲神楽と同じ六調子もありますが、石見神楽独自のテンポの速い八調子のお囃子が主流で、豪華な衣裳に表情豊かな面や視覚的要素を織り交ぜた華やかな演出などが特徴です。
石見地方では子どもの頃から神楽にふれる機会が多く、神楽の社中にも若い舞手の姿が多く見られます。江津市の都治(つち)神楽社中で活躍する、高校生から大学生までの4人の若手の皆さんにお話を聞かせていただきました。
まず、神楽を始めるようになったきっかけを聞くと、皆口々に「小さい頃から神楽を観て育ち、衣裳や舞いの『カッコよさ』にあこがれていた」「いつか自分も大きな舞台に立ち舞ってみたいと思っていた」との答え。やはり、生まれた時から神楽に親しんで育った影響は大きいですし、子供神楽として(観るだけでなく)実際に演じてみたことがきっかけで、興味を持つ子もいるようです。 現在、都治神楽社中には、小学生6人、中学生2人、高校生7人、大学生が2人通って来ているとのこと。石見地方では、町のレンタルショップに石見神楽のDVD が並んでいるところもあるといいますから、子どもからお年寄りまで心を引き付ける魅力が、石見神楽にはあるのですね。
稽古は通常週に2回、夜8時から大体10時ないし11時くらいまで、熱心に取り組んでいます。好きな事をやっているので大変と感じることはないそうですが、それでも、夏舞っている時は暑くて衣裳も汗でびしょびしょに。また時には、課題やテストなど学業との両立に苦心したり、公演前には社中を背負っているというプレッシャーから緊張を感じることも。満足いく舞いができない時は、先輩方に夜遅くまでていねいに指導してもらい、それに舞いで応えたいという気持ちで稽古に励みます。そして全てを越えて、いざ実際の本番でお客さんに拍手をもらった瞬間、それまでの苦労は吹き飛んでしまいます。
初めての演目で自分の役をもらった時はとてもうれしかったそうで、今は主に姫や鬼、神などそれぞの役を誇りを持って演じている彼らですが、将来は自分の社中の花形である『大江山』の酒呑童子(しゅてんどうじ)や、主人公の源頼光、あるいは『大蛇』のスサノオノミコトを演じてみたい、とそれぞれ夢がふくらみます。
そんな後輩たちの姿に、先輩方も「準備なども含め、若い子に助けてもらうことが多いので、いい舞いを作っていくため一緒に頑張っていきたい。今通って来ている皆がいつまでも長く続けてほしいし、これからもよい伝統を継承していきたい。」と思いを語ってくださいました。
- 島根県江津市都治町
- TEL:0855-55-0457
江戸時代初期に、佐太神社で旧来の神楽に能楽の要素を取り入れて、格調高い神楽能「佐陀神能」(ユネスコ無形文化遺産)が誕生しました。この佐陀神能は、その後の出雲神楽に大きな影響を及ぼすことになりました。
出雲神楽の中で300年位上の歴史があり、奏楽(そうがく)や舞において他にない独特な特徴を持っているのが「大土地神楽(おおどちかぐら)」(国指定重要無形民俗文化財)です。
大土地神楽に魅せられ、関東から神楽の世界に飛び込んできた、若きダンサー・高須賀千江子さんに、大土地神楽との出会いや魅力をうかがいました。
高須賀さんは、関東を中心にダンサーやモデルとして活躍していましたが、2011年に初めて出雲大社を訪れた際、「この大地を自分は知っている!」という不思議な感覚に打たれ、すっかり出雲が気に入ってしまいます。そして縁あって大土地神楽を観た彼女は、大変な感銘を受けました。都会で生まれ育った高須賀さんにとって、神楽のような伝統的な舞にふれるのは初めてのこと。自分がやっている踊りの原点を見せつけられたような気がして、「これをぜひ自分も学んでみたい!」と、知り合いの方を通して相談してみたところ、快く受け入れてもらえたのだそうです。
いざ神楽を習い始めてみると、それまでやってきたダンスと何もかも異なっていました。ダンサーである高須賀さんは関節が柔らかいため、腕や体の動きが神楽での動作よりも曲がり過ぎたり、腰を落とし過ぎたり、膝を上げ過ぎたりなど、これまでのダンスの「クセ」を直すのにかなり苦労したとのことです。
「とにかく頑張り屋です。時には歯を食いしばりながらも、人が演じている姿を見ながら学びとろうとする姿勢がいいですね。」と神楽方の桐山和弘会長。試行錯誤しながらも、舞を舞台で披露する機会が増えて来ました。
高須賀さんにとっての踊りは、自分が踊ることや、人に楽しんでもらうことももちろんですが、神様への感謝、観に来てくださった方々や出会わせてもらえたことへの感謝の想いが、原動力だと感じてきました。しかし、大土地神楽の皆さんが「舞っていうのは人を楽しませるものでもあるけど、でもやっぱり大土地荒神社の神様に見せるものだよな」という話を、ごく自然にまた熱心にされている姿に感動したといいます。出雲へ遊びに来てくれた友だちに大土地神楽を観てもらうと、稽古の風景でも涙が出てくるという人がいたり、「神楽のイメージまさにそのまま」という感想も多く、その度に「神楽の原点だ」という思いを新たにするのだそうです。
「出雲神楽は地味だという声も聞きますが、私にとってはものすごく迫力を感じるし、舞手の方たちの完成度を高める意識や気迫には、並々ならぬものがあると感じています。伝統が300年間変わらずに残り、今この場に生きているということが、私にとってとても魅力です。たくさんの皆さんに、是非この土地で、この空気を味わいながら楽しんでいただきたいと思います。」と高須賀さんは語ります。
- 島根県出雲市大社町
- ★大土地神楽保存会 HP
島根県西部(石見地方)はとりわけ神楽に熱心な地域ですが、そんな神楽にかける情熱が生んだご当地めしである「神楽めし」。石見の肉がてんこ盛りの「オロチ丼」、石見の魚がどっさりの「えびす丼」、そして今年は石見の旬の食材をメインにした「大黒めし」が新登場!参加店やメニューもどんどん増殖中です。各お店自慢の技と味覚を、たっぷりご賞味あれ! ※メニューは季節ごとに異なりますので、ご確認の上お出かけください。
神楽の衣裳を着させていただく、貴重な体験をしました。(しかもこの衣裳1着で、高級車が買えそうな値段なんです!)重さも10キロ以上あるそうで、羽織ってるだけでどんどん肩が凝ってくるし、腕を床と平行に上げようとするだけでもものすごく重かったです。(筋力ある方だと思ってたのに…)
それだけでも暑いのに、これでお面を付けて激しく動くなんて、相当な体力を使うことを身を持って感じました。衣裳を着た写真の自分の姿は何の迫力もなく(笑)、演じる方の重要性が感じられる1枚となりました。
若い舞手さんたちへのインタビューでは、舞台を観に行くだけでは知ることのできない想いを知ることができ、神楽を観に行くのが楽しみになりました!
しまね観光大使 藤田 麻紀子 さん