アマテラスとスサノオ


高天原追放

母への思い。アマテラスとの「誓約(うけい)」

イザナキが禊(みそぎ)をすることで生まれたアマテラス、ツクヨミ、スサノオの三貴子。アマテラスは天の国である高天原、ツクヨミは夜の国、スサノオは海原と、それぞれが支配地を与えられます。しかし、スサノオは母イザナミを慕って泣いてばかりいて、海原を治めようとしません。それが原因で父イザナキの怒りを買い、スサノオは追放されることになってしまいました。
そこでスサノオは姉にあたるアマテラスに挨拶して黄泉の国に旅立とうと、高天原へ上っていきます。そんな姿を見て、アマテラスはスサノオが高天原を奪いに来たと誤解してしまいます。そこで、スサノオは疑いを晴らすため、「誓約(うけい)」*1 という占い(正邪を判断する裁判)を行うよう提案。占いの結果はスサノオの勝利で、野心がないと認められました。
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「高天原─出雲」ルートの謎

スサノオはアマテラスの高天原に入ることを許されますが、占いに勝ったことから慢心し、アマテラスの造った田畑を破壊するなど、そこでさまざまな悪行を働いてしまいます。
こうした行動がアマテラスの逆鱗に触れ、その結果、スサノオはひげや手足の爪を抜かれて高天原から追放されてしまいます。その後、スサノオは出雲に降り、ヤマタノオロチを退治することになりますが、出雲に至るまでの経路が『古事記』と『日本書紀』で少し違っています。
まず『古事記』をみると、スサノオは出雲国の肥の河上(ひのかわかみ)にある「鳥髪(とりかみ)」に天降ったとされています。肥の河上とは、斐伊川の上流を指し、鳥髪(山)とは、奥出雲町にある船通山(せんつうざん)のこととされています。スサノオは、斐伊川の上流の船通山に降りたことになります。
こうした記述を『日本書紀』も基本的には受け継いでいます。『日本書紀』は本文のほかに「一書(あるふみ)」として別伝承を載せていることが特徴の一つですが、この「一書」は神話の部分に特に多くみられます。
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渡来神としてのスサノオ

スサノオの高天原追放のエピソードでは、本文のほかに五つの「一書」が載せられています。つまり『日本書紀』には全部で六つの高天原追放神話があるということになります。 たとえば第二の「一書」ではスサノオは、安芸国の可愛(え)の川上に天降ったとされます。しかし、本文をはじめ、第一の「一書」、第三の「一書」、第四の「一書」と、多くの解釈ではやはり出雲の斐伊川上流に天降ったとしています。とくに第四の「一書」には新羅(しらぎ)を経て出雲国にある鳥上の峰に天降ったとあり、高天原から朝鮮半島を経由して出雲国へ至ったことが記されています。 この朝鮮半島を経由するコースについては第五の「一書」にも韓郷(からくに)から紀伊国を経て熊成峯(くまなりのたけ)に降りたと記されています。第四と第五の「一書」によると、スサノオは朝鮮半島を経由しているわけですが、この理由についてはおそらくスサノオが渡来神であることを示唆していると考えられます。

それは、製鉄の起源も暗示!?

スサノオの性格をめぐっては多くのことがいわれていますが、そもそも高天原を追放されるに至った悪行には、田畑を破壊するなど農耕に対する罪が多くあります。こうしたことからも、農耕とは相容れない神と考えることができます。『出雲国風土記』にある鉄関連の伝承と結びつけて、製鉄神とする見解もあります。そして製鉄神とするならば、その製鉄技術は朝鮮半島からの渡来人によってもたらされたと考えられ、彼らによって信仰された神がスサノオということになり、朝鮮半島を経由してスサノオが天降ったというのもうなずけます。


<第一章>天地初発へ続く

関連情報・注釈

*1 誓約(うけい)」/予め決めた通りの結果が出るかどうかで、正邪や成否を決める占い。この場合、スサノオは女神を生むことによって、たけだけしい心がないことを示し、身の潔白を証明しました。