葦原中国の平定


<第ニ章>アメノワカヒコの死

三年が経ってもアメノホヒ神は帰ってこないので、
再び、タカギムスヒ神とアマテラス大神は
高天原の神々と相談して、
アメノワカヒコを派遣することにしました。

アメノワカヒコは、葦原中国に降りてゆきましたが、
オオクニヌシ神の娘のシタテルヒメと結婚してしまいました。
アメノワカヒコは、葦原中国を自分の国にしようと考え、
八年が経っても、命令を果たしませんでした。

そこで、アマテラス大神とタカギムスヒ神は、
「アメノワカヒコが帰ってこない。
 どの神を遣わして、長い間帰ってこない理由を
 聞いたらよいだろう。」
と、高天原の神々に問いました。
神々は相談して、オモイカネ神が
「ナキメがよいでしょう。」
と答えました。

そこで、ナキメに
「『おまえを葦原中国に遣わしたのは、
 その国の荒ぶる神々を説得して、
 従わせるためである。
 どうして八年経っても
 帰ってこないのだ』
 と聞いてきなさい。」
と命令しました。

ナキメは天より降って、
アメノワカヒコの住まいの入り口にある
神聖な桂の木にとまり、
アマテラス大神とタカギムスヒ神の言葉を
伝えました。
ナキメは雉の姿をしています。

すると、それを聞いたアメノクサメが
「この鳥は、ひどく鳴き声が悪いので
 射殺すべきです。」
とアメノワカヒコに進言しました。

アメノワカヒコはただちに、
天つ神より与えられた弓と矢をもち、
ナキメを射殺しました。

その矢は雉の胸を突き抜けて、
天の安の河にいた
アマテラス大神とタカギムスヒ神のところに
届きました。

タカギムスヒ神はその矢を手に取ってみると
血が矢の羽についています。
「この矢は、アメノワカヒコに与えた矢ではないか。」

タカギムスヒ神は、矢を高天原の神々に示し見せながら
「もし、アメノワカヒコが命令どおりに
 悪い神を射た矢なら、アメノワカヒコには当たらない。
 もし、命令に背いて放った矢なら、
 アメノワカヒコは、この矢の禍を受けよ。』
といって、矢を突き返しました。

矢は、朝方になってもまだ寝ている
アメノワカヒコの胸に突き刺さり、
アメノワカヒコは、死んでいました。

結局、天より遣わした雉は帰って来ませんでした。
そこで、行ったままで、帰ってこない使いのことを
「雉の頓使い(ひたつかい)」というようになりました。

一方、夫の死を悲しんで泣く
シタテルヒメの声は、風に乗って
高天原まで届きました。
高天原にいつアメノワカヒコの父は、
アメノワカヒコの妻子とともに
天より葦原中国に降りて嘆き悲しみました。

アメノワカヒコを喪屋(もや)に安置していると、
アヂスキタカヒコ神がやって来て、
アメノワカヒコを弔いました。

それを見たアメノワカヒコの父は
「わが子は死んでいなかった。」
といい、
高天原に住む妻も
「わたしの夫は死んでいななかった。」
といって、
アヂスキタカヒコ神の手や足にすがりついて泣きました。

それを聞いたアヂスキタカヒコ神は、
「仲の良い友だちだったからこそ、弔いに来たのに
 わたしを死者と間違えるなんて。」
と大変怒って、その喪屋を切り倒し
蹴り飛ばししてしまいました。
その喪屋は、美濃国(みののくに)の喪山になってしまいました。

アヂスキタカヒコ神が怒って飛び去ってしまうと、
妹のタカヒメ神が、その名を明かそうと、
「アヂスキタカヒコ神は私の兄です。」
と歌いました。


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関連情報・注釈