葦原中国の平定


<第三章>国譲り

アマテラス大神は、再び
「どの神を遣わしたらよいだろう」
と言いました。

オモイカネ神と高天原の神々は相談して、
タケミカヅチ神にアメノトリフネ神とともに
遣わすことにしました。

二柱の神は、出雲国のイザサの小浜に
天より降りてくると、
剣を逆さまに刺し立てて
その上にあぐらをかいてすわり、
オオクニヌシ神にたずねました。

「わたしは、アマテラス大神とタカギムスヒ神に
 遣わされて、命令を伝えるためにやって来ました。
 『あなたの支配する葦原中国は、
 わが御子が支配する国である』
 と、天つ御子に統治をお任せになりました。
 あなたの気持ちを聞かせてください。」

オオクニヌシ神は答えました。
「わたしは申し上げられません。
 わたしの子のコトシロヌシが申し上げるでしょう。
 しかしながら、コトシロヌシ神は、
 漁をするため、御大(みほ)の岬に行き、
 また帰ってきていません。」

そこで、アメノトリフネ神を遣わして、
コトシロヌシ神を呼び出すことにしました。

やって来たコトシロヌシ神は、
父のオオクニヌシ神に
「おそれおおいことです。
 この国は、天つ神の御子に差し上げましょう。」
と言って、乗ってきた船を踏みかたむけて、
天の逆手を打って、船を青柴垣(あおふしがき)にして、
隠れてしまいました。

そこでタカミカヅチ神は、たずねました。
「コトシロヌシ神は、同意しました。
 ほかに、この命令を申し伝えておくべき神はいますか。」
と。
オオクニヌシ神が
「わたしの子にタケミナカタという神がおります。
この子を除いてほかにはおりません。」
と答えていると、
そのタケミナカタ神が、
千人がかかってやっと引くような大きな石を
指先に持ち上げながらやって来て、
「誰だ。わたしの国にやってきて
 ひそひそと話をしているのは。
 まずは力競べをしようではないか。
 まずは、わたしがあなたの手を取ろう。」
といい、タカミカヅチ神の手を取りました。

するとタケミカヅチ神の手は、
たちまちに氷柱(つらら)に変わり、
また、たちまちに剣の刃となりました。

それを見たタケミナカタ神が恐れおののいて、
引き下がると、
今度は、タケミカヅチ神が
タケミカヅチ神の手を取ろうと、その手を引き寄せると、
若い葦(あし)の芽を握りつぶすように、
手を握りつぶして、投げ飛ばしたので、
タケミナカタ神は、ただちに逃げ去ってゆきました。

タケミカヅチ神は、それを追って
科野国(しなののくに)の州羽海まで追いかけて、
ついに殺そうとしたところ、
タケミナカタ神は、
「恐れ多いことです。
 わたしを殺さないでください。
 わたしは、この場所にいて、
 ほかの場所へは行きません。
 また、父のご命令にも、
 兄のコトシロヌシ神の言葉にも
 背きません。
 この葦原中国は、天つ御子の命令のままに
 差し上げましよう。」
と言いました。

タケミカヅチ神は、再び帰り来て、
オオクニヌシ神に言いました。
「あなたの子どもの、
 コトシロヌシ神もタケミナカタ神も
 天つ神の御子のご命令に従い、背くことはない、
 と言っていますが、あなたの気持ちはどうですか。」

オオクニヌシ神は答えました。
「わたしの子である二柱の神が同意したのなら、
 わたしもご命令に従い、背きません。
 この葦原中国は、命令どおりに差し上げましょう。
 ただし、私の住まいは、
 天つ神の御子が日継(ひつぎ)を受け継ぐ時に住む御殿のように、
 宮柱を太く建て、高天原まで千木が届くように高くして
 お祭りくだされば、私は曲がりくねった角の先に
 隠れておりましょう。
 また、わたしの子である百八十神(ももやそがみ)は、
 コトシロヌシ神が、諸神の先頭、あるいは後尾に立って
 お仕えするならば、背いたりはしないでしょう。」
と答えました。

こうして、出雲の多芸志(たぎし)の小浜に
天の御舎が造られました。

水戸神の孫であるクシヤダマ神は料理人となって
天つ神のためにご馳走を作ろうと、
火を起こすため燧臼(ひきりうす)と
燧杵(ひきりぎね)をつくって
火を起こして、こう言いました。
「わたしが起こした火を、
 高天原のカミムスビ神が新しく住む住まいにまで
 煙が届くように、底に深くの石まで焼き固まるまで、
 燃やしましょう。
 丈夫に作った縄を打ち投げて釣りをする漁師が釣った
 大きなスズキを、さわさわと引き寄せて、
 料理を乗せる台がたわんでしまうほど大量の
 魚料理をお供えしましょう。」

こうしてタケミカヅチ神は、
高天原に還り昇って、葦原中国の平定を
アマテラス大神とタカギムスヒ神に申し上げました。


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