語り:高梨 文太夫さん(隠岐郡西郷町 明治35年生まれ・昭和46年収録) |
とんとん昔があったげな。
山寺に酒好きな和尚さんが独りで住んでおり、晩になると独酌でちびりちびりやって、酔っぱらって眠っていたそうです。ある夜のこと。どこからかオトとセイというとても美男子の稚児がやってきて、
「和尚さん、どうぞ酒を召し上がってください」
とお酒の燗をして、熱いお酒を和尚さんにすすめました。和尚さんはたいへん喜んで、きれいな少年が酌をするものでもう一杯、もう一杯というようにいくらでも飲んでいたら、とうとう酔いが回って、もう後先がわからないようになってきました。
和尚さんがじゅうぶん酔ったと見ると、そのオトとセイの2人が、クモの本性を現してエギ(クモのはく糸の方言)を吐いて、和尚さんの手足をぐるぐると自由にならないように縛り付けてしまいました。それでも、そこは和尚さんですから、びっくりしながら何か呪文を唱えました。
「リン、ビョウ、トウ、シャー、カイ、チン、レツ、ザイ、ゼーン(臨、兵、闘、者、皆、陳、列、在、前)」・・・あの九字を一生懸命に切って(唱えました)。
初めは効きませんでしたが、和尚とクモの業比べになりまして、和尚さんの業が勝っていたのでしょうか、とうとうクモの自由を奪ってしまい、クモの方が負けました。
そこで和尚さんはその子供を引っ張っていろりの火の中へ引きずり込みますと、にわかに美少年がクモの本体を現し火の中で四苦八苦して、まもなく死んでしまいます。それは格別大きなクモが二匹だったそうです。
それで隠岐の島では、朝クモは福の神さんで、夜グモは(妖怪なので)親に似ていても殺せといい、夜グモだけ嫌がります。それで、「オト稚児、セイ稚児、夜グモは焼いてやれ」と唱えごとをしながら焼くのです。その昔のゴンベノハァ。
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