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絵姿女房

 この話は、「絵姿女房」として、各地で語られており有名ですが、中国山地の奥深いこの横田町にも残されていました。難題をふっかけ、解決できないと妻を取ろうと企てる殿様に、竜宮の乙姫である妻が太刀打ちし、結局は殿様をやっつけてしまうという筋書きです。とかく無理を命じる為政者に対する庶民の抵抗の精神が、このような昔話の背景になっているのではないでしょうか。
(解説 酒井董美先生)
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千原 貞四郎さん写真
語り:千原 貞四郎さん(仁多郡横田町 明治21年生・昭和47年収録)


 とんと昔があったげな。
そこに独り男がおって、毎日毎日畑仕事をして、野菜を作って町へ持って出て売っていたげな。
たいした雨の降る年に龍宮さんを頼んで、
「まあちっと雨を降らせんように」と頼んで、野菜売りに出るたびに、野菜を橋の上から川へ投げて、「龍宮さん、野菜を作らにゃならんに雨が降っていけませんけん、つうと(少し)雨を降らせんようにしてごしない」と毎日毎日帰っていたら、また天気が良くなるししていたげな。
ところが、ある日、ふっとよい女が来て、
「なんとおらあ、おまえの女房にしてごさっしゃい」
「いやあ、おら独り男やなんやで、女房やなんやもらったててよう養わん」
「たいした養あてもらわいでもええけに、おまえの女房にしてごせえ」
「いや、たいした養わいでもええちゅうことなら、まあ、女房にさあ(する)」
その男は考えて、あんまりいい女なので、放っておいて仕事に出ることはいやなのでだれかに良く似た絵を描いてもらって、それから自分の鼻先に竹にその絵を挟んでおいて、見ながらでないと仕事が出来なくなったげな。
それで、それを見ながら仕事をしていたら、大風が吹いてきて、それをパーと飛ばしてしまった。それから、どこへ行ったやら分からなかったが、それが殿さんの庭へ落ちたそうで、一昔は殿さんがよい女だと思うと、娘だろうが嫁だろうと取られてしまったげながー。
「この女房、妃に迎えて来い」と家来に申しつけられたげな。
家来は同じ顔をした女をと思って捜していたら、ちょうどその女を見つけたげな。
「おまいの女房は、殿さんとこへ連れて行く。殿さんの方へ出さんか」
「いんや」
「むつかしいことになあ。いや、困ったもんだなあ」
「どげなむつかしい・・・」
「あ、殿さんの女房に出さんようなら、焼き縄三束持ってきて納めい。焼き束三束出すか、女房出すか」
そこで男が妻にその話をしたら、妻は、
「ああ、そげなことはみやすいことだ。その縄を三束ほどニガリ(苦汁)の中へつけちょいて、あげて、それを焼きゃあ、硬い硬い焼き縄でも、なんぼうでも持って上がれえやな縄になあけん。それを干いて、そうから持って行って、殿さんとこで火いつけて焼いて出すがええ。そげすりゃあ、黒い焼き縄が三束出来い」
「ほんなら、そげすうわ」
それで焼き縄三束出したことになたところが、
「いやあ、こうじゃあまんだいけん。ほんなぁな、こんだあ『叩かぬ太鼓の鳴る太鼓、笛を吹いて舞う男』こっさえて持って来い」
「いや、そいちゃあむつかしいことだが、まあ、いんで女房に話してみい」
妻に話したら、
「やあぁ、そらややすいことだ。山へ行って大きな蜂の巣う取って来て、かあ、太鼓の中へ入れて蓋あして、これを持って行って、殿さんに『たった一人一間に入っちょて蓋あ取らっしゃい』言いて持って行きなさい」
それから男が持って行って、それから殿さんに、
「『叩かぬ太鼓の鳴る太鼓』いうやつは、これは殿さん一人、一間い入っちょって、この蓋あ取らっしゃらあ、うまいこと鳴あますけん」。
そうすると、殿さんが一人一間へ入って蓋を取られたら、中から蜂がポン、ポン、ポン、ポン、ポンポコンと言って、いやあ、殿さんを刺すやら何やらで。それから殿さんは口笛を吹いて舞い出されたら、男が、
「こうが『叩かぬ太鼓の鳴る太鼓、笛を吹いて舞う男』」というと、殿さんは、
「やあ、こいちゃぁ何でもすうやつだなあ。今度ぁ、もっとむつかしいことを言いつけてやろう。おい、大モッケ、小モッケつう者がおおが、それを連れて来うか、女房を渡すか」
「大モッケ、小モッケててどげな者だ」
「いや、どげな者でもええ。ありゃあとてもよけいおう者じゃねえ」
男はまた帰って妻に話したら、
「やあ、大モッケ、小モッケやな強ええ者が殿さんとこへ行ってしまってなら、殿さんの家が潰れえが、そうでもいいだらか」と言う。男はまた殿さんのところへ行ってそれを話したら、
「ああ、そうでもいいけん連れて来い」。男は帰って言った。
「そうでもいいけん連れて来いつうことだわ」。
妻は、
「ありゃあのう、おらが連れて来うけん」と言ったげな。その女が竜宮界の乙姫さんだったげで、その手下に大モッケ、小モッケというすごい者がいるが、男はそのことを知らず、妻がそれを連れて殿さんの家へ行って腰をかけたら殿さんの家がメラメラーといって壊れてしまったげな。
それで何でもほどを知らず、何でもかんでも人にむずかしことを言うものではないと。
そうで昔こっぼし。


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