奉納神楽(ほうのうかぐら)の 楽しみ方
石見神楽本来の姿 石見の奉納神楽

農業の豊作・漁業の豊漁・商売繁盛と、一年の実りに感謝をする秋祭りは、全国各地の氏神様を祀る神社で行われ、様々な特色あふれる伝統芸能が神事に彩りを加えます。伝統芸能は、御神輿などの神事と共に氏子の楽しみとされ、ここ石見地域では「石見神楽」が伝統芸能として分布し、人々に愛される郷土芸能として発展してきました。
秋の夜、煌々と輝く神社では神灯が焚かれ、コオロギの奏でる静寂の中、粛々と神事が執り行われます。神事が終わると神々を楽しませる御神楽として、石見神楽が奉納されます。古(いにしえ)より、石見神楽は夜を徹して行われ、翌日の神輿の出る本祭までの間を繋ぐ、氏子の娯楽として十数演目の神楽が演じられてきました。
初めは神々を迎えるための儀式舞(ぎしきまい)から始まり、神々の武勇を伝える能舞が煌びやかに演じられ、ユーモアな茶利舞などで夜半を和ませ、朝方、クライマックス「大蛇(おろち)」、東・西・南・北・中央の所務を分ける「五神(ごじん)」を舞い、氏子と共に五穀豊穣を願うのが慣わしです。
(氏子/神社の氏神様が守る、地区住民の人々)

儀式舞 神々の存在を感じる荘厳な舞。
「神迎(かみむかえ)」神楽歌を歌いながら、神々を迎え入れる。

「塩祓(しおはらい)」神殿を静かに拝む。

儀式舞が始まると、徐々に氏子が集まり始める。

儀式舞は、狩衣姿の軽装で厳かに演じられる神楽で、主に「神楽(かぐら)」「塩祓(しおはらい)」「神迎(かみむかえ)」などが、奉納神楽の序盤に行われます。東西南北を祓い清め、神様をお迎えするための神楽ですが、氏子にとっては石見神楽の始まりを告げる合図ともなり、儀式舞が始まるのを合図に、徐々に神社に人々が集い始めます。

能舞 目の前に、神話の登場人物が次々現れる。

「岩戸(いわと)」宇宙を表す天蓋(てんがい)と、神殿の提灯が奉納の雰囲気を醸し出す。

「塵輪(じんりん)」豪華絢爛な衣裳が映える。

子どもに大人気の演目「恵比須(えびす)」。

勢いよく火を噴き出して登場する「鍾馗(しょうき)」の鬼。

「黒塚(くろづか)」は、ユーモアたっぷりに演じられる。

「大蛇(おろち)」は最終か終盤に演じられる定番演目。

「五神(ごじん)」は 祭りの最後を締めくくる貴重な舞。

能舞は、煌びやかな衣裳を身に纏(まと)い、神々の武勇や物語を題材にした演目の事を指します。演目に登場する鬼の多くは恐ろしい形相をした面(仮面)を被り、神や姫なども役柄に応じた面をつけ、神話絵巻さながらの世界観を表現し、台本筋に従い演じられます。舞い方、所作や、面を被る、被らないは神楽団体により様々で、筋の構成や口上なども神楽団体により違う場合があります。煌びやかな「塵輪(じんりん)」、和やかな「恵比須(えびす)」、終盤の「大蛇(おろち)」へと休みなく演じられ、その目まぐるしさが、石見神楽を味わう醍醐味といえます。また、能舞の中には、「黒塚(くろづか)」「八十神(やそがみ)」「日本武尊(やまとたけるのみこと)」などユーモアな演目もあり、「茶利(ちゃり)」という冗談を交えた会話で観客をも巻き込み笑いを誘います。長い時間の神楽奉納、娯楽として氏子を楽しませる工夫も随所にされています。

神楽会場・時間 様々な形式の奉納神楽を楽しもう。

「本殿」での奉納神楽。(渡津天満宮/江津市)

「神楽殿」での奉納神楽。(佐毘賣山神社/益田市)

「舞台櫓(ぶたいやぐら)」での奉納神楽。(瀬戸見専称寺/浜田市)

神社奉納での石見神楽の多くは、神社境内の本殿や、神楽殿で行われます。町によっては近くの集会場などで行われる場合もあります。町や神社の規模により屋台の出る大々的な祭りや、こじんまりとした祭りなど様々です。全て町の皆さんの取り計らいによるものです。
時間は、昔ながらの夜通し行われるものは21時頃から明け方6時頃までですが、近年は19時頃~24時頃までの半夜での奉納が主流となっています。地域によっては日中に行われる神社もあり、所によって様々です。

奉納神楽 鑑賞心得

❖防寒対策
夜の神楽鑑賞はとても冷えます。基本的に秋シーズンは日中は気温が高いため、晩はストーブなど用意されていません。しっかりと防寒着を着て鑑賞にのぞみましょう。毛布やカイロなど準備するのも良いでしょう。

❖食料・飲み物の備え
神社奉納は山の中の神社など、周囲に店のない場所で行われることも多くあります。また、食料品店も晩には閉まってしまうため、事前に食料・飲み物は用意しましょう。
(町場の祭りではコンビニが近くにあったり、地元の方が用意する売店もある場合があります。)

❖鑑賞は地元の方ファースト
祭りや神楽奉納は町の皆さんの寄付により成り立っています。町のお祭りに参加させてもらう意識を持ち、地元の皆さんが楽しめるよう心遣いが必要です。むやみに一番前の席に座るなどしないよう、控えめな姿勢が大切です。

❖駐車場は基本なし
町のお祭りですので大きなお祭り以外は、基本的に駐車場は用意されていません。困った場合は一旦地元の方に声をかけ、駐めていい場所を確認してみるのがよいでしょう。タクシーのご利用をおすすめします。

❖その他
奉納神楽は、その町の地元の神楽団体が演じます。地元に神楽団体のない場合は、その町と縁のある団体や贔屓の団体が雇われ、神楽を奉納します。地元の方が舞う際は、氏子から多くのかけ声・声援が送られることもあり、氏子の飛び入りなどがある場合もあります。地域の方と一体となって楽しむ場ですので、認識をしておきましょう。
神楽の幕合には、御花披露として、寄付をされた方の名前が読み上げられます。多くは地元の方の寄付となりますが、鑑賞して素晴らしいと思えば寄付することができます。「花を打つ」と言い、三千円からが目安です。感想とともに、神楽の楽屋へ届けるのがよいでしょう。(あくまで任意です)
トイレは神社に元々あるものや、近くの集会所のトイレを開放しているケースなどがあります。基本的に全く用意されていない事はありませんが、ハンカチ・ティッシュは必ず持参しておきましょう。
会場によっては、一升瓶で鑑賞者にお酒を振る舞うこともあります。車の運転などされない場合は、応じてお祭り気分に浸るのも良いでしょう。