美大生の淳一と泉美は恋人同士。幸せな日々は、いつまでも続くはずだった--。
ある日、バイクで花見に出かけた帰り、トラックとの衝突事故に遭い、泉美だけが助かることに。
愛する人を失くしただけでなく、そのショックから事故当時の記憶までも失ってしまう泉美。
なぜ自分だけが無傷で助かったのか・・・。あの時何が起こっていたのか・・・。
一人残された苦しみと闘いながらも、弁護士・真希子との出会いをきっかけに、愛する人との最期の記憶を取り戻そうと、“空白の10分間”という事故の真相を辿っていく。
すると、そこには想像を絶するほどの真実と、極限状態の中で二人の本能的な想いが生んだ衝撃の“愛のカタチ”があった。
そして・・・。
島根でのロケを終えて。
その坂は静かな山あいの入口に、ひっそりと佇んでいました。東出雲町の黄泉比良坂(よもつひらさか)を訪れた主人公の泉美は、その坂でせめてもう一度恋人の淳一に逢いたいと願います。
ラストシーンをその坂にして良かった・・・悠久の時を感じる出雲の地で、大切な人への思いを永遠に繋げたいと願う主人公を描けて良かった・・・と私は思っています。
斐川町の出西織の工房をはじめ、奥出雲町の駅、一畑電鉄の駅、ワイナリー、そして出雲大社・・・すべてが思い出深いロケ地となりました。撮影では大勢の方に多大なご協力を頂き「だんだん」にso muchを付けるほどの私とスタッフ一同でした。
「瞬」に出雲を登場させたのは、喫茶店で構想を考えていたときに、隣に座る女性たちの話を耳にしたのがきっかけ。「神在祭」とか「縁結びの神様」の話が、まるで私に語りかけているかのように聞こえた。
それから様々な本を読み、実際に出雲へも三度訪れた。その度に、出雲には言いようもない神秘な雰囲気がそこかしこに漂っていると気づかされる。出雲大社は『瞬』原作小説から引用すれば“静謐な空気が漂っている”場所。そして、ラストで泉美が訪れる伊賦夜坂は、山道に続く小さな空間に竹藪と小池があり、ひっそりとした深遠な空気に包まれている。「古事記」に書かれた場所ではあるが、地元でも知る人は少ないと聞く。私だけの秘密にしておきたい気もするが、小説を読んで、また映画を観て、この場所を訪れる人がいたら、それもまたうれしい。
河原れんのデビュー作となる珠玉の長篇小説
・文庫本:520円
(本体価格 495円)