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養鶏業が盛んで、ブランド鳥「長州どり」、地鶏「長州黒かしわ」などで知られる「焼きとりの町」山口県長門市で、「この世で一番焼きとりが好き」と豪語する女がしっぽり一人はしご酒。ほぼ、一串×一杯ペースで飲み進めてきた【前編】。酔いは回り、頭は回らない【後編】へ。
今回紹介する店舗様
未遂「焼きとり こうもり」
「長門の焼きとりといえば」で真っ先に名前が出てくるのが「焼きとり こうもり」。2024年3月に長門市駅の真ん前に移転&外観を一新して生まれ変わった。この街一番の老舗で、地元はもちろん全国から焼きとり好きが集う名店だ。いざ!と向かうと、この日はまさかの臨時休業日。
時間にしばられないのがはしご酒。その時の気分と酔い具合で気ままに彷徨うので、基本的に「予約」の概念がない。「これもまた運命」「次回の楽しみができた」などと自分を励ましつつ次の店へ。
こうもりの記事はこちら 「そぞろ歩きの楽園へ。生まれ変わった長門湯本温泉を訪ねる」


3軒目「とまりぎ」
3軒目は長門市駅横にある「とまりぎ」。前を通った時から気にはなっていたけれど、勇気がなくて入れなかったお店の1つだ。灯る赤ちょうちんに無意識に吸い寄せられるのは酔っ払いの性。「人間も虫みたいなもんだな」などと考えつつ気づけば小走りになっていた。暖簾をくぐると、ずらりと並ぶお酒、使い込まれた焼き場とカウンター、テレビでは野球中継が流れている。「焼きとり屋の正解」のような味わい深い雰囲気に心が踊る。
教わりつつ吟味して注文する1軒目、ちびちびマイペースに注文する2軒目、そして3軒目は「店主に丸投げ」にすることにした。出てきたのは、せせり(塩)、ぼんじり(塩)、はつ(塩)。偶然か必然か、私の好きな部位ベスト3が並ぶ。お酒は芋焼酎をロックで。日本酒、クラフトビール、芋焼酎と、店ごとに酒種を変えて楽しむのが、はしご酒のマイルールだ。

長門の焼きとりの特徴「ガーリックパウダー」と「女性の店主が多い」について、店主が焼きながら話してくれた。漁業が盛んだった時代、漁師の妻が夫が漁に出ている間の仕事として焼きとり屋を始めたのが、焼きとりの町のルーツ。そして「漁師は塩味に慣れているからガーリックパウダーが登場した」という説もあるらしい。うんちくを聞きながら食べる焼きとりは格別だ。
店主が趣味で集めるミリタリーグッズの話、鉄道の話、芋焼酎の違い、純喫茶のポテトサラダの話。そういえば焼き鳥の話をほとんどしていない。一見寡黙そうな店主との会話が想像以上に盛り上がり、お酒もすすむ。そしてたわいもない話をしながら出てくる串が、お腹いっぱいなのにどれも美味しい。
店主は前は養鶏場で働いており、捌き方や部位にも詳しい。「一串ずつこだわりを説明したりしないんですか?」と聞いてみると「黙って出して、食べてもらって“おいしいですね、これなんですか?”と聞かれたら説明します。語り過ぎは、カッコ悪いでしょう笑」と、少しだけ笑顔がこぼれた。

INFORMATION
とまりぎ
長門市東深川14

徒歩10分圏内に、こんなに焼きとり店が集まる町なんてなかなかない。そして店ごとにスタイルが違うので飽きない。「家の近くにあってほしい」と何度もつぶやく夜だった。誰もが養鶏場のことを口にするところに、店と養鶏場の距離の近さと、長門の鶏に誇りを持っているのを感じる。
胸もいっぱいになったところで、女一人はしご酒終了。

Photo / Taku Fukumori
Text / Nozomi Inoue