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そぞろ歩きの楽園へ。生まれ変わった長門湯本温泉を訪ねる
旅に行くなら地元の食や文化に出会いたいし、温泉でゆっくりもしたい。とはいえ鄙びた秘境も定番の観光地も気分じゃない……。今回は、そんなわがままな旅好きの望みを叶えてくる、古くて新しい温泉街を紹介します。山口県「長門湯本温泉」で、いざそぞろ歩きの旅へ。
街ごとリニューアルした老舗温泉街
山口県の谷あいにある温泉郷「長門湯本温泉」。萩・石見空港から車なら2時間ほど。電車なら益田駅からJR山陰本線に揺られ長門市駅へ。JR美祢線(みねせん)に乗り換え長門湯本駅に到着すると、旅情をかきたてるレトロな駅舎がお出迎え。
長門湯本温泉は約600年の歴史をもつ、山口県内最古の温泉街。そう聞くと、いわゆる“鄙びた温泉地”を想像するかもしれませんが、さにあらず。実はこちら、2020年に持続可能な温泉地としてリニューアルした、古くて新しい温泉地なのです。
リニューアルで掲げられたコンセプトが「オソト天国」、すなわち外歩きを楽しめる温泉街。音信川(おとずれがわ)を中心に、川床テラスや遊歩道、立ち寄り湯などが整備され、公共空間のそぞろ歩きが楽しめる温泉街へと、街ごと生まれ変わったのです。
昔ながらの商店や旅館が立ち並ぶ情緒あふれる街並みに、この数年つぎつぎと新しいお店が増えています。例えばナチュールワインが飲めるレストラン、クラフトビールの醸造所、萩焼のセレクトショップなど面白そうなお店ばかり。すべて歩いて回れる距離にあるのだから、街歩きが楽しくないわけありません。
どこを歩いても、目を見張る美しさ。
竹林の階段を抜けると、せせらぎの音が聞こえてきます。地域のシンボル「音信川(おとずれがわ)」は、季節になるとホタルが飛び交う清流が自慢。夏には地域の子どもたちが水遊びする、地域の憩いの場です
川辺には遊歩道や川床テラスが整備され、中心部の一部は自動車の乗り入れが制限されているので、心おきなく歩けます。歩くスピードも自然とゆるやかに、足を止めて風景を眺める余裕が生まれるから不思議。街を歩くだけで、慌ただしい日常から解きほぐされる感覚に。
『界 長門』で地域の文化に触れる
そぞろ歩きに特化した街づくりへのリニューアル。そのマスタープランを長門市や地域とともに計画または立案したのが、国内外で温泉旅館を手掛ける星野リゾートです。星野リゾートの温泉旅館「界 長門」では、滞在を通して地域の歴史や文化に触れることができます。
「“王道なのに、あたらしい。”が界のモットー。ここ『界 長門』は藩主の御茶屋屋敷をコンセプトに、地域の魅力を発見していただける温泉宿です」と総支配人の幾竹さん。館内には徳治和紙や大内塗り、萩ガラスなど山口県の伝統工芸による美しい設えが。地域の食材を使った料理や、赤間硯で墨をすって文字をつづるご当地楽 「大人の墨あそび」体験など、ご当地の文化に触れられる仕掛けがちりばめられています。
「長門湯本温泉は豊かな歴史と文化が息づく土地です。リニューアル以降新しいお店も増え、新しい魅力も生まれています。個人的に好きな場所は音信川にある川床ですね。『サンロクロクビール』さんでクラフトビールを、『恩湯食』さんでフライドチキンをテイクアウトして、川床で楽しむ。デザートには『界 長門』のどらやきをぜひ」(幾竹さん)
食べ歩き推奨の街、その実力たるや。
長門湯本温泉は、実は“食べ歩き推奨”の街。名産の柑橘「ゆずきち」のサワー、ぜんざい、どやらやき、フライドポテトにピタパンと、さまざまなお店が自慢の料理をテイクアウトで販売しています。橋の手すりが食べ物を乗せやすいフラットな設計になっていたり、腰掛けられる場所が至る所にあったりと、まさに食べ歩き天国。
モダンな建築、その正体は……?
歩き疲れたら温泉でひと休憩。こちらのガラス張りのモダンな建物が、源泉の真上に建つ立ち寄り湯です。「立ち寄り湯 恩湯」は、岩盤からお湯が湧き出る全国でも珍しい温泉。深さ1メートルの湯船に浸かり、美肌に効くといわれる泉質のぬる湯をゆっくり楽しめます。
お風呂上がりにナチュールなんて、どうでしょう。
温泉を堪能したら、道向かいの「恩湯食」へ。長門名産の鶏肉や、地域の生産者がつくる旬の野菜を使ったヘルシーな料理が人気のレストラン。食材の個性を引き出す味つけはシンプルにして絶妙。滋味深い味わいが、お風呂あがりの体にやさしく染み渡ります。こちらのおすすめはナチュールワインとのペアリング。お風呂あがりのワインとおいしいご飯は、大人にこそ許された旅先の贅沢。デザートにはお豆腐を使ったスイーツもぜひ。
夕食は足を伸ばして「長門焼きとり」を。
長門に来たならぜひ食べてほしいのが、「長門焼きとり」。長門市は人口1万人当たりのやきとり店の数が全国トップクラスの「焼きとり日本一のまち」。
そんな長門の焼きとり文化の原点といえる名店が、戦後まもない1948年創業の「こうもり」。長門湯本温泉から足を伸ばして訪れる価値大アリの、ローカルの名店です。
のれんをくぐると元気な女将さんとマスターがお出迎え。まだ夕方の時間帯ながらカウンターには地元の常連さんや旅行者が入り混じり、すでに賑わっています。「うちは14時オープン。長門は港町だから、早朝に漁に出た漁師が仕事終わりで来られるようにね」とは3代目店主・大深勝和さん。
でも、港町なのに焼き鳥が名物とは一体どういうことでしょうか? 「それはね、水揚げした魚を加工するときアラが出るでしょう。それが鶏のご飯になるんですよ。新鮮な魚を食べてるから、長門の鶏は美味しいの」。
美味の裏側に街の歴史あり。そんな話を聞くと、焼き鳥の美味しさも一層深く味わえるもの。長門の特徴である玉ねぎをつかった焼きとりに、常連さんが“日本一”と太鼓判を押す「たまご」に、新鮮な肝刺し……絶品の料理と、楽しいおしゃべりであっという間に時が過ぎていきます。
夜のそぞろ歩きも長門湯本温泉の醍醐味
お腹も満たされ、いい気分で長門湯本温泉に戻ると、街の姿ががらりと一変しています。長門湯本温泉のそぞろ歩きは、実は夜も大本命。竹林の階段や赤い橋が闇夜に浮かび、軒先には提灯が並ぶ。そんな情緒あふれる街並みを浴衣で歩けば、幻想世界へ迷い込んだ気分。カメラを片手に歩くのも、夜の楽しい過ごしかたです。
時には忙しない日々のリズムはお休みして、のんびりした時間を楽しみたいもの。美しい風景、川のせせらぎと澄んだ空気、おいしい食とあたたかな人々との出会い……気ままなそぞろ歩きの旅は、そっと五感を解きほぐしてくれる発見に満ちています。そんな、自分をリセットしてくれる特別な旅先に、長門湯本温泉はきっとなってくれるはずです。
Photography Yuri Nanasaki
この記事で登場した場所
365+1 BEER(サンロクロクビール)
山口県長門市深川湯本1247-2
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cafe&pottery音
山口県長門市深川湯本1261-12
0837-25-4004
界 長門
山口県長門市深川湯本2229-1
050-3134-8092(界予約センター)
A.side
山口県長門市深川湯本1284
0837-25-3408
立ち寄り湯 恩湯
山口県長門市深川湯本2265
0837-25-4100
恩湯食
山口県長門市深川湯本2270-5
0837-25-4333
焼きとり こうもり
山口県長門市東深川911
0837-22-0617