EDITOR'S PICKS 編集部のおすすめ

クラフトビールこそ「生」で!
萩・石見にしかない一杯を求めて

全国各地のブリュワリーから、次々と生み出されているご当地クラフトビール。日本海、山、川、田畑、すべてに恵まれる萩・石見エリアもまた、地の恵みを生かしたクラフトビールの宝庫。「旅の目的の9割が食と酒」の呑ん兵衛達にとって、ご当地クラフトビールとの出会いはもはや旅の目的。そしてせっかくなら…いや絶対に「生」で飲みたい。荷物と肝臓を整えて、いざ、クラフト「生」ビールに出会う旅へ。

萩・石見で出会ったクラフト「生」ビールの魅力は、土地ならではの食材をつかった個性的なフレーバー、ユニークなネーミング、そしてその奥にある人と町のストーリー。飲みながら作り手の話を聞いていると、ビールのことだけでなく、だんだんその地の人や暮らしが見えてきて、はじめての場所なのに急に親しみが湧いてくるから不思議だ。

高津川リバービア

東京から約90分!「ただいま」と言いたくなる一杯。

長閑な町並みに、溶け込みつつも目を引く【クラフト酒場高角】。数件先に醸造所がある。

高津川まで徒歩1分、歌人・柿本人麻呂を祀る【高津柿本神社】の参道にある【高津川リバービア】。白い暖簾をくぐると、ふわりとクロモジのいい香りが漂う。昔豆腐屋だったという建物には、藁入りの土壁やかまどが今も残り、ドッグランにもなる裏庭から店内にかけて気持ちのいい風が抜ける。店員さんも、すでに赤い顔の県外から来たお父さんも、フレンドリーで自然体。おばあちゃんの家に来たような気分で、飲む前から靴を脱ぎすっかりくつろぎモードに。

この日は【レモングラスAPA】【美都いちごセゾン】【和紅茶アンバー】の女子力が高まりそうな3種飲み比べセット。

「自分の飲みたいビールしかつくらない」と語る社長の並々ならぬ愛が育むビール達。生ビールは基本3種の日替わりで、高津川流域や、長門、阿武町など地の素材がふんだんに使われている。「全部ちょっとずつ飲みたい」という気持ちを見透かされたかのように【今日の3種飲み比べセット】の文字が。オリジナルのグラスに注がれると香りがさらに広がり、思わず目を閉じて五感で呑む。もちろん「ちょっと」で終わるわけもなく二杯目へ突入してしまった。

とことん爽やかでフレッシュ!山口県阿武町の特産品キウイフルーツを使った【阿武キウイセゾン】。

スタッフのほとんどが近所に住んでいる。いつ飲んでも帰れるなんてうらやましい。

【匹見の花わさび漬け】は澄んだ辛みと香りの良さにびっくり。「余計なことをしていない」ところが最高。

お土産や飛行機の待ち時間には瓶ビールを。空港の売店より種類が多く、発送にも対応。

「ブリュワーが自分のためにつくる」シリーズ。作品に銘を打つように「美」はブリュワーの名前からとっている。

INFORMATION

高津川リバービア(クラフト酒場高角)

住所:島根県益田市高津2-3-19
Instagram:https://www.instagram.com/takatsugawariverbeer/

365+1 BEER

温泉街の週末タップルーム。「旅の目的」になる一杯。

温泉街リニューアルの際に使わなくなった外湯の看板「湯本」の文字をもらってきた。いつか2階をビールの飲める図書館にしたいそう。

山口県で最も古い、約600年もの歴史を持つ【長門湯本温泉】にある醸造所【365+1 BEER】。金・土曜日だけ、醸造所に併設されるタップルームで、4〜6種類の生ビールを楽しめる。「全国どこでも飲めるのではなく、この地に来て飲んで欲しい」というオーナー有賀さん夫妻の思いから、県外への卸しは知り合いなど限られたお店のみで基本的には近場のお店のみ。これぞ「わざわざ飲みに行きたい」旅の一杯だ。

3種のベリーでつくる【MAD TSUDA GOSE】(左) と、福岡のお米をつかった【穣々-JŌJŌ-】(右)。

この日の生ビールは見た目も味も対照的な2つ。隣の集落にある【津田農園】との出会いから生まれた【MAD TSUDA GOSE】は、まるで摘みたてベリーのフレッシュジュース。爽やかな酸味につられぐびぐび飲んでしまうがAlc.7%なので要注意。福岡の【いとしまシェアハウス】と開発した、お米でつくる【穣々-JŌJŌ-】は、フルーティ系に飽きた方におすすめのドライ系。ずっと飲み続けられる絶妙なバランスに思わず唸る。
ほろ酔いで外に出るとそこはリニューアルした魅惑的な温泉街。すっかり「温泉キメて一泊したい」気分に。長門湯本温泉の魅力(策略?)にしっかりとはまってしまった。

元々都市開発のコンサルタントとして長門湯本温泉に携わっていたのが、オーナー有賀さん夫妻の移住のきっかけ。

「湯本」の「湯」を店の正面で発見。ネオンも点くように修理している。

おいしい上にラベルもかわいい瓶ビールは「間違いない」お土産!

ビール以外にも、子どもから大人まで楽しめる川床メニューが盛りだくさん。

生ビールをテイクアウトして川床で飲めば、現実からのエスケープ完了。

INFORMATION

365+1 BEER

住所:山口県長門市深川湯本1247-2
Instagram:https://www.instagram.com/sanrokuroku_beer/

FARMER’S BREWERY 穂波

農場生まれ!自家製有機野菜の恵みがつまった大地の一杯。

【穂波ブラウン】(左)、【穂波八朔】(中)、【からたちIPA】(右)。

浜田市内でオーガニック野菜を栽培する農場【三島ファーム】。農場が営むブリュワリー【FARMER’S BREWERY 穂波】のビールには、有機安納芋やイチゴ、地元産の黒豆など、自家製の有機野菜や島根県産の素材が副原料としてたっぷりと使われている。浜田の海でとれた新鮮な魚介類が並ぶ【はまだお魚市場】の1階にある【BEER STAND HONAMI】は醸造所に併設するビアスタンドで、つくりたての生ビールが楽しめる。

スタンドには5人くらいまで座れるカウンター席のみ。この気軽さがサクッと飲むのにちょうどいい。

「今朝も畑にいました」と、キラキラした笑顔で語る齋藤さん。タップから注がれる生ビールはその時のおすすめで、この日は自家製の有機紫芋をつかった【穂波レッド】、みかんのような香りが広がる【からたちIPA】、八朔とホップの苦味が爽やかな【穂波八朔】の3種。そしてビールのお供に浜田名物【鯖ドック】が登場!山陰沖でとれた鯖と、農場で採れた野菜の贅沢サンド。浜田の海と大地の恵みが一気に味わえる。現地にしかないビールのお供との出会いもまた、呑ん兵衛の楽しみの一つなのだ。

【からたちIPA】の柑橘の香りと苦味が鯖の脂とベストマッチ。出会うために生まれてきた?

農場でも働く齋藤さんに野菜の話を聞きながら飲む生ビールは格別においしい。

瓶のラインナップも充実。農場の恵みがずらりと並び、まるで野菜を選んでいるよう。

目の前に漁港がある【はまだお魚市場】はJR浜田駅までバスで約12分。飲んでも安心。

INFORMATION

BEER STAND HONAMI

住所:島根県浜田市原井町3050-46 はまだお魚市場1F
web:https://hamadaosakana.com/

萩城下町ビールMURATA

老舗蒲鉾店の挑戦。おいしいものを、もっとおいしくする一杯。

ついつい入ってみたくなる、開放的でモダンな店構え。

【萩城下町ビールMURATA】があるのは、高杉晋作や吉田松陰などの偉人を輩出した、世界遺産に登録される城下町。観光客がふらりと立ち寄りやすいオープンな店構えで、生ビール片手に散策する人も多い。萩名物である蒲鉾の老舗【村田蒲鉾店】が「蒲鉾の魅力を伝えるため」にはじめたビールスタンドで、地元の素材を活かしたクラフトビール(生は常時3種)と、熱々の創作天ぷらが楽しめる。

女性に人気の【萩ゆずエール】(左)、珍しい青いビール【渚エール】(中)、ビール通好みの【城下町ピルスナー】(右)。

とにかく印象的なのが萩の海をイメージした青いビール【渚エール】。グレープフルーツなどの柑橘に、ミネラル豊富な萩の塩を加えた、ビールというよりカクテルのような一杯。「写真映え」も抜群で、特に女性に人気だという。チーズや半熟卵、海鮮などでアレンジされた創作蒲鉾たちが、ショーケースにずらりと並ぶ姿はまるでスイーツ。蒲鉾というより「KAMABOKO」だ。3種のビールに合う蒲鉾を選び、かぶりつく。はふはふしながら食べる熱々の蒲鉾と冷えた生ビール。ありそうで無い組み合わせは、想像以上にマリアージュしていた。

ビールのことを楽しそうに語る寺山さん。ビール好きにはIPAがおすすめだそう。

お土産用ラインナップ。近くの海で飲んだり、宿で夜に楽しむのもおすすめ。

おやつのような感覚でかじれる蒲鉾。味も色もとりどりで選ぶのも楽しい。

良質なエソが入った時しかつくられない、職人こだわりの焼き抜き蒲鉾。特別感が伝わる高級感あふれるパッケージ。

INFORMATION

萩城下町ビール MURATA

住所:山口県萩市呉服町2-10
web:https://hagi-craftbeer.com/

今は日本中・世界中のクラフトビールを通販で取り寄せることができるし、缶や瓶も十分おいしい。それでもやっぱりつくられた土地で呑む「生」は別格。現地までの道のり、ブリュワーの想い、その土地の空気感がさらに酔わせてくれる。またクラフトビールは瓶や缶に注ぐ瞬間をピークに、少しずつ劣化していくという。理屈としても「生」はクラフトビールのベストコンディションなのだ。
萩・石見の大地の恵みがつまったクラフトビールと、熱きブリュワーたちに敬意を込めて、最高の状態をいただく。これぞ呑ん兵衛にとっての至高の旅だ。

Photo / Takafumi Matsui
Photo / Taku Fukumori
Text / Nozomi Inoue

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