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「車は使わない、だから旅が面白くなる」
編集者・山本梓さんが語る、未開拓の魅力を探す萩・石見旅

編集者 山本 梓

日本各地を訪れ地域の魅力を取材する編集者の山本梓さん。ローカルへの旅を重ねる彼女がこよなく愛し、プライベート含め10回以上訪ねている旅先が萩・石見エリア。「萩・石見は、車がなくても楽しめる場所」という山本さんに、その隠れた魅力に出会う、ツウな萩・石見旅について伺います。

山本梓(やまもと・あずさ)
編集者・執筆家。1985年東京都生まれ。日本各地のローカルな話題を届ける雑誌『ソトコト』編集部などを経て独立。編集者として各地に足を運び、雑誌やwebなどで発信を続ける。萩・石見エリアはプライベート含め10回以上通うほどお気に入り。神出鬼没のスナックユニット「地域こわし愚連隊」として、日本各地でスナックを開く活動も。
https://note.com/jamamotocapisa

「何もない場所」だった石見が
「自分の居場所」に変わった

山本さんは日本各地のローカルを旅していますが、中でも萩・石見が気に入って通っているんですよね。最初のきっかけは何だったんですか?

山本さん:10年ほど前に雑誌の仕事で石見を訪れたのが最初でした。でも、はじめて石見の町を歩いた感想は、正直「何もない場所だなあ」っていう感じだったんです(笑)。観光地として知られていないから、どこに行けばいいのかよく分からなくて。

島根だと出雲や松江に行く人に比べると、石見を目的地に旅する人は少数派かもしれないですね。

山本さん:そうですね。石見は他の地域と比べると情報がなかなか見つけづらかったんです。でも、だからこそまだ知られてない素敵な場所がたくさんあるし、自分なりの発見が楽しめる場所だって、今はそう思うんですけどね。

「何もない場所」という最初の印象が変わったきっかけは、何だったんですか?

山本さん:現地の人と知り合ったのが大きいですね。昔からある地域のお店とか、地元の人がよく行く場所を教えてもらって訪ねるうちに、最初は「何にもないなあ」って思っていた一角にも、実は夫婦で古くからやっている素敵なバーがあったり。一見何もなく見えても、飛び込めば土地の文化や歴史があるんですよね。

見えにくかった街の魅力が、地元の人の視点を借りて見えてきたんですね。

山本さん:そうなんです。「一歩踏み込んだら、いろいろあるじゃん!」って。そうやってローカルに飛び込んで、魅力を発見していくうちに石見にハマっていきました。今では年に一回は必ず訪れますし、通ううちに「石見って文化度が高いんだなあ」っていう、新しい発見もあったり。

ということは、軽く10回以上は石見を旅していますね。山本さんにとって石見の魅力って何でしょうか?

山本さん:まず、人がおおらかなんです。山陰って閉鎖的なイメージがあるかもしれませんが、石見の人はむしろオープンで人懐っこい感じがします。そのうえで、いい距離感を保ってくれるというか。放っておいてほしいときは旅人として放っておいてくれるし、こちらが話をしたくてうずうずしているときはいろんなことを教えてくれる。実にちょうどいいんです。そうして自分の好きな居場所ができていく感じが、嬉しいんですよね。

旅先に自分の居場所をつくる。素敵な旅の方法ですね。

山本さん:それに、石見には一般的にはあまり知られてない素敵な場所も多くて、それもいいんですよね。開拓されてない魅力を自分で発掘している感じがして。

益田駅周辺の街並み。山陰本線の赤い列車が走る。

ちなみに山本さんは車を使わずに石見を旅するんですよね。実際、不便じゃないですか?

山本さん:全然! 萩・石見空港から益田駅まではタクシーで10分ちょっとでアクセスがいいんです。益田に行けば素敵なホテルもあるし、列車やバスで他の地域にも出やすいですし、駅の周りはお店や文化施設も多いですからね。歩いて回ると気になる場所に立ち寄りやすくて、車を使わないから楽しめる感じもあるんですよね。

車を使わないからこそ、楽しめる旅。その視点は面白いですね。

山本さん:運転しないから、気がねなくお酒も飲めますし(笑)。免許がなくても運転が苦手でも、安心して石見を訪ねてくださいって、声を大にして言いたいですね。

運転しないから昼飲みも楽しめる
山本さん流、石見ローカル旅

山本さんおすすめの旅のプランを教えてもらえますか?

山本さん:私の場合は、まずは地元の台湾料理屋さんで1杯ひっかけることから始まります(笑)。「明珠(めいしゅ)」っていうお店があるんですけど、そこは私の定番です。朝の飛行機で羽田を出ると、お昼前に萩・石見空港に着くので、そのまま明珠に寄って、ビールと料理2皿のセットを頼みますね。

昼飲みは旅の醍醐味ですよね(笑)。

山本さん:運転しないので、心置きなく昼から飲めるのが最高で(笑)。明珠は地域の人たちが普段使いするお店なので、作業着姿の人たちが昼に大盛の定食を食べていたりするんですよ。そういう地元っぽい空間に飛び込むのが最高で。あとは「キヌヤ」っていうローカルスーパーも必ず寄りますね。「今日のお買い得は何?」っていうおかあさんと店員さんの会話に聞き耳を立てながら、地元の人の気分で買い物します(笑)。

山本さんお気に入りの台湾料理店「明珠」。ドリンク1杯と選べる2皿のセット。サービスのピーナッツもニクい。

山本さんがこよなく愛する石見発祥のローカルスーパー「キヌヤ」。地産品の割合を増やし地域経済を活性化させるため企業努力を続ける。

山本さんがヘビーユースするキヌヤTシャツ。ミニ看板は山本さんのスナックユニット「地域こわし愚連隊」のグッズ。

特にキヌヤが好きな理由ってありますか?

山本さん:キヌヤに行くと、地域の生産者さんの野菜が、入り口の一番目立つところに並べてあるんです。営業時間も長くて、地域に貢献する姿勢と企業努力がすごいし、地元の人たちに愛されるスーパーなんですよね。益田のデザイン会社がキヌヤを愛するあまりロゴTシャツを作ったりもしていて。ちなみに私の夢は、キヌヤでレジ打ちのバイトをすることです(笑)。

山本さんも地元民級にキヌヤを愛してますね(笑)。他におすすめの場所はありますか?

山本さん:散歩がてら「グラントワ」まで足をのばすのもいいですね。グラントワは美術館と劇場のある文化芸術施設で、石州瓦(せきしゅうがわら)の建築が本当に素敵で。先鋭的な企画展をやっていることも多いです。益田には最近ミニシアターもできましたし、文化度が高い町なんですよね。居心地のよさは、そこにも関係あるのかもしれないです。

気取らないローカル感がある一方で、文化的な街でもある。

山本さん:その絶妙なバランスは益田の魅力ですよね。地域の日常に溶け込むこともできるし、文化的な場所をめぐる楽しみもある。足を伸ばせば辺境の美しい風景も訪ねられるし、自分なりの旅ができるっていうか。10年前から石見に通い続けて、有名なスポットに行って美味しいものを食べるだけが旅じゃないんだって、もっと感じるようになりました。

旅する編集者が“日本一好き”な
海辺の列車で萩へ向かう

山本さんは萩にもよく行かれるんですよね。

山本さん:萩も好きでよく行きますね。家でも萩焼きの器を愛用していますし、スナックユニット「地域こわし愚連隊」でも何度も出店させていただいたり。萩までは益田から山陰本線を列車で1時間ちょっと。その移動時間が、もう最高で。

山本さんが自宅で愛用する萩焼きの器は「大屋窯」のもの。

山陰本線は、 山本さんが“日本一好きな路線”だとか。

山本さん:いろいろな場所を訪ねましたけど、山陰本線は格別ですよ。海沿いをずっと走るので、眺めがいいんです。夏は海と空と石見の赤瓦の街並み、冬には日本海の白い波しぶき。そんな風景をぼおっと眺めるのは幸せな時間です。

車を使わないから、列車という楽しみが生まれるんですね。旅では移動時間が楽しいって大事なポイントですよね。

山本さん:時間や季節によっても風景が違いますし、乗るたびにいいなあって。地元の人の足でもあるので、ローカルな空気に浸れるのもいいんですよ。いつも車内で地元の人の会話に聞き耳を立てながら、石見弁の響きに酔いしれています(笑)。

日本一長い在来線でもある山陰本線。路線のほとんどの場所から日本海が一望できる。

京都駅から中国地方の日本海沿岸を経由し山口県下関市 幡生駅までを結ぶ。

車窓からの日本海。のどかな海岸線が広がる。 

移りゆく空の色と赤瓦の街並み。車窓からは日本海に沈む夕日も見られる。

萩に着いたらどんな風に旅をしますか?

山本さん:私は現地で仲良くなった人に連れられてお店を訪ねることが多いですね。益田みたいにふらっと歩いて探すというよりは、人の繋がりから広がっていく感じで。

初めて訪れた人でも、地元の人と気軽に話せるような場所はありますか?

山本:「ruco」っていうゲストハウスがあって、おすすめです。1階がカフェとバーになっていて、地元の人も旅行者も集まる場所で、萩の友人はrucoで出会った人も多いですね。

ローカルコミュニティの入り口みたいな場所を知っていると、旅の充実度が変わりそうですね。

山本:rucoはまさにそういう場所ですね。rucoで初めて会った人と仲良くなって、夜そのまま飲みに行ったことも何度もありますよ。近くにある「MARU」っていう居酒屋さんに連れて行ってもらったり。そして、飲んだ翌日はやっぱり「どんどん」のうどんですね。

萩で有名なローカルのうどん屋さんですね。

山本:とろっと柔らかい独特な麺が美味しいんです。あの優しい口当たりが飲んだ翌朝に沁みる(笑)。

ちなみに、萩でもローカルスーパーは覗くんですか?

山本:もちろん行きますよ、サンリブとかアトラスとか(笑)。萩だと金太郎っていう魚がよくスーパーとかで売っているんですけど、足が早くて地域の外に出にくいらしくて。そういう土地ならではの食材に出会えるのが楽しいんですよね。

ゲストハウスrucoのカフェスペース。地元の人も旅行者も入り混じり出会いの生まれる場所になっている。

どんどんのかやくうどん。お酒を飲んだ翌日の優しい味方。
朝11時までのおトクな「モーニングうどん」が嬉しい

金太郎は、フランス料理で使われる「ルージュ」の仲間。水揚げがあればローカルスーパーや道の駅などで購入可。

金太郎の天ぷら。「道の駅萩しーまーと」内レストランで食べられる。甘味と旨味の豊かな深い味わい。

石見と萩、それぞれ違う楽しみ方があるんですね。山本さんが萩・石見を愛してやまない理由が分かった気がします。

山本さん:私の場合は出会いや発見を楽しみながら、お酒を飲みながら歩いている感じですね(笑)。でも、そうやって目的地を決めずふらっと行く旅って、いいですよね。石見や萩は車がなくても、お酒が飲めても飲めなくても楽しめる場所だと思いますし、ぜひ気軽に遊びに行ってみてください。今日は大好きな石見や萩の話をさせてもらえて、本当に幸せでした(笑)。

Photography Maki Taguchi(山本さん取材分)、
Yuri Nanasaki(石見・萩分)
Editing Masaya Yamawaka

この記事で登場した場所

明珠

〒698-0024
島根県益田市駅前町10-20
TEL 0856-23-1787

キヌヤ 益田ショッピングセンター

〒698-0023
島根県益田市常盤町4-38
TEL 0856-23-0580

島根県芸術文化センター 「グラントワ」

〒698-0022
島根県益田市有明町5−15
TEL 0856-31-1860

ruco

〒758-0044
山口県萩市唐樋町92
TEL 0838-21-7435

どんどん 唐樋店

〒758-0044
山口県萩市唐樋町30-1
TEL 0838-22-0761

さらに!

山本さんの気になる宿と食

サウナと地の食でととのう
MASCOS HOTEL

天然温泉とサウナが人気のデザインホテル。1Fでは音楽や芸術のイベントも開かれ、カルチャーの発信地として注目を集めている。レストランで楽しめる、新鮮な地元食材を使った料理や、島根の地酒、オリジナルのクラフトビールも人気。

〒698-0024
島根県益田市駅前町30-20
TEL 0856-25-7331

日常に寄り添う町のベーカリー
yuQuri

地元生産者の野菜や果物を使った、牛乳・卵不使用のやさしいパンは、旅のお供におすすめ。店頭で使われている萩焼きの器も美しい。

〒758-0044
山口県萩市唐樋町9
TEL 0838-21-7789
URL https://www.hagi-yuquri.com/