一兵士として戦争に巻き込まれ、戦犯となり運命に引き裂かれる市民の姿を描く、現在公開中の映画「私は貝になりたい」。
戦争がもたらす不条理や哀しみ、家族愛や人間の心の機微が痛切に心に響く作品です。
重要なシーンが撮影された島根県隠岐、奥出雲町でのロケ風景、地元の魅力をご紹介します。
清水豊松(中居正広)は高知の漁港町で、理髪店を開業していた。家族は女房の房江(仲間由紀恵)と一人息子の健一(加藤翼)。決して豊かではないが、家族三人理髪店でなんとか暮らしてゆく目鼻がついた矢先、戦争が激しさを増し豊松にも赤紙=召集令状が届く。豊松が配属されたのは、外地ではなく、本土防衛の為に編成された中部軍の部隊だったが、そこで彼は、思いもよらない過酷な命令を受ける。
終戦。…豊松は、やっとの思いで家族のもとに戻り、やがて二人目の子供を授かったことを知る。平和な生活が戻ってきたかに思えた。しかし、それもつかの間、突然やってきたMP(ミリタリーポリス)に、従軍中の事件の戦犯として逮捕されてしまう。そして待っていたのは、裁判の日々だった。
「自分は無実だ!」と主張する豊松。だが、占領軍による裁判では、旧日本軍で上官の命令がいかに絶対であったか判事には理解されず、極めて重い判決が下る。妻の房江は船と列車を乗り継ぎ、遠く離れた豊松の元を訪れる。逮捕後に生まれた初めて見る娘の直子、妻・房江の泣きそうな顔。そして気丈にふるまう健一。豊松は「帰りたいなぁ…みんなと一緒に土佐へ。」と涙を流し語りかける。無実を主張する豊松は、同房の囚人たちとアメリカの大統領に向けて減刑の嘆願を始めていた。やがて結ばれる講和条約で釈放される。誰もがその事に希望をつないでいた。一方、故郷の高知に戻った房江は、来る日も来る日も必死の思いで嘆願書の署名を集めるのだった。ただ、豊松の帰って来る日を信じて…。
<中居 正広さん:清水 豊松 役>
『私は貝になりたい』には、反戦、家族愛、命の大切さなど、本当にいろいろなテーマがあって、脚本をいただいた時は、芝居でそれを表現していくことが自分にできるのだろうかと思いました。主人公の清水豊松は、妻と子供がいるごく普通の家庭をもち、理髪店でつつましく働いている平凡な男です。そんな何の罪も無い男にある日突然、赤紙が来て、彼は戦争に加担することになる。自分の選んだ道でなく、組織が決めた道を進まなくてはいけなくなる。
今の若い人から見ると、本当にそんなことが日本で起こったのか、と思うかもしれません。共演者の石坂浩二さんや武田
鉄矢さんに当時の体験を話していただく機会があって、僕自身、驚いたことや信じられないことがたくさんありました。でも同時に、そんな時代を経て、今のこの時代があるということを伝えられたらという気持ちが強くわいてきました。
クランクインする前、監督に個人的にお願いして、一つひとつのセリフにいたるまですべて、アドバイスをもらいながら演出をつけていただいたんです。この作品に関しては、監督にすべて委ねるつもりで臨みました。そこには、信頼を超える何かがあったと思います。
出来上がったこの映画、気持ちのこもった作品になっていると思います。
<仲間 由紀恵さん:清水 房江 役>
愛する夫を粛々と戦争に送り出し、戦後は、戦犯の疑いをかけられて連行された夫を助けようと必死に支える……私の演じる清水房江はそんな女性です。前向きでまっすぐな強さをもつ、そんなけなげな女性がこの時代にはたくさんいたのだろう、と思いながら、その女性像を大切に演じていきました。
戦争に行くことが決まった夫・豊松の髪をバリカンで刈るシーンがあるのですが、これは実際に私が中居さんの頭を刈っています。失敗は許されないので、プレッシャーでいっぱいでしたが、刈り終わった時の中居さんのお顔がとても美しく、そこに清らかな魂をもった豊松がいて、ものすごく感動しました。
房江が豊松を救う署名を集めるため、雪の山を越えて村に行くシーンでは、本物の吹雪の中を歩いています。5分おきに天候が変わる山の中で吹雪が来るのをじっと待っていると、ちょうど大粒で撮影にぴったりの吹雪が起こって、監督が「神が降りてきた」とおっしゃったのが、とても印象に残っています。
登場人物の気持ちが報われず、苦しさだけが心に残るのですが、戦争の傷あとはこういうものだと、改めて感じさせてくれる大事なメッセージがここにあります。
<福澤 克雄 監督>
脚本家・橋本忍氏が、故黒澤明監督に「何かが足りない」といわれた、1959年のフランキー堺さん主演のドラマ「私は貝になりたい」。前作に足りないものは何か…橋本氏が辿り着いた答え、それは「海」と「悲劇性」でした。
「今回、日本一の海を探さないとという思いがありました」と福澤克雄監督。ただ海だけを撮っても面白くない。独特のスケール感を表現するには、良い海だけじゃなく、大地がしっかりしていないとという思いを抱き、ロケ地探しが始まりました。日本全国の海と大地を探す旅の末に見つけ出したのが、島根県隠岐諸島の西ノ島。
「まさにイメージピッタリの場所。夏、冬の2回撮影を行いましたが、結果、納得のいく、イメージ通りの撮影ができたと思います。」(プロダクション・ノートより)
今回の映画化にあたって、「私は貝になりたい」という言葉を際立たせる「美しい海を是非映したい」、そして「美しい日本の風景、四季を映したい」という脚本家・橋本忍氏たっての希望で、スタッフは美しい海・海岸線を求めて日本の海岸線をほぼ一周しました。そしてその結果めぐり合ったのが、隠岐の国賀海岸だったのです。
また福澤監督が2004年にドラマ「砂の器」を演出した際訪れた奥出雲町にほれ込み、今回房江が署名を集める重要シーンのロケ地として選ばれました。
映画の重要なシーンに登場する『国賀海岸』。海面から300メートルの高さにそそり立つ断崖と、日本海の雄大な景色は隠岐を代表する景勝地です。対照的に、丘の上では牛や馬が放牧され、のどかな風景を楽しむ事ができます。国賀巡りができる定期観光船もあるので、海上から眺めるのもおすすめ。
摩天崖はもちろん、鬼ヶ城、乙姫御殿、通天橋などの見どころもあり、波が穏やかな時は、『明暗の岩屋』という洞窟に入れます。
最近発見された『ねずみ男岩』と『ぬりかべ岩』も見どころスポットになっています。
また、隠岐のグルメといえば、夏が旬の『隠岐の岩牡蠣』。牡蠣の王様と呼ばれるほどの大粒の身が特徴です。磯の香りたっぷりの牡蠣を、是非味わってみてください。
「国賀海岸」詳細 >>
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藁葺き屋根の民家が残り、昔懐かしい風景が広がる奥出雲の地。冬になると、辺り一面が深い雪に覆われます。気温が氷点下になることもしばしば。そんな厳しい環境の中で撮影が行われました。
<嘆願書の署名を集めに訪ねる民家>
真っ白に降り積もった雪の中、藁葺き屋根の家々を房江役の仲間さんが嘆願書に署名をしてもらうために奔走するシーンが撮影されました。また石垣が組まれた立派な造りの民家では、署名を町の名士らしき男性に断られるシーンの撮影が行われました。その他、房江がおばあさんに道を尋ねるシーンなどがここ奥出雲町で撮影されました。
<吹雪の中、峠や里山を歩む>
横殴りの猛吹雪の中、村を訪ねて房江は里や山をめぐって行きます。「雪待ち」の撮影の合間には、仲間さんが積もった雪で雪だるまやかまくらを作っておられたそうです。
山間の斜面に続く七曲り峠の山道では、降り積もる雪の中、房江が200人目の署名をもらうシーンが撮影されました。このシーンは、地元の方もロケを見ているだけで、涙が出てくるほど感動的だったそうです。
<その他の奥出雲の風景>
●奥出雲町のグルメ・観光スポット
<玉峰山荘>
亀嵩温泉で有名な『玉峰山荘』。この山荘は、撮影時に福澤監督や仲間さんが宿泊した宿です。薬湯として昔から利用されていた温泉、仁多米など、地元の素材をふんだんに使った料理が人気です。
玉峰山荘の売店で販売している『しいたけ醤油』。これは奥出雲特産のしいたけを豊富に使い、良質のいりこ、昆布、かつおで旨味を出した絶品の味です。実はこの『しいたけ醤油』、福澤監督が以前、ドラマ『砂の器』の撮影時に訪れた際に大変気に入ったという商品。美味しい仁多米に卵をのせ、この『しいたけ醤油』をかけて食べるのが監督流。栄養たっぷりの卵かけご飯を食べて撮影に臨んでいたそうです。
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<道の駅 酒蔵奥出雲交流館・湯野神社>
亀嵩温泉の近くにある道の駅『酒蔵奥出雲交流館』は、仁多米をテーマとした交流施設です。仁多米、お酒や米ぬかなどの加工品のほか、奥出雲の特産品を展示・販売しています。
館内では、福澤監督の作品・ドラマ『砂の器』のロケに使われたセットや小道具が展示されています。さらに道の駅の近くには、渡辺謙さんがロケに訪れた『湯野神社』や、『砂の器』記念碑などもあります。
島根県奥出雲町でロケが行われた、映画「砂の器」特集
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道の駅 酒蔵奥出雲交流館HP >>
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<しまね和牛・出雲そば>
奥出雲町といえば、仁多米はもちろんですが、しまね和牛、出雲そばも有名です。
しまね和牛は性質がおとなしいため飼育しやすく、また早熟早肥で体格・体型に優れています。とろけるような食感と独特の甘い香りが特徴で、国内のコンテストなどでも上位を獲得したこともあり、全国的に高い評価を受けています。
出雲そばは、玄そば(そばの殻つき)の挽きぐるみのそば粉を使っているため、麺の色が黒っぽいのが特徴です。麺は固めで歯ごたえがあるので、しかっり噛んで味わうのが出雲そばの食べ方。「割子そば」や「釜揚げそば」など、他の地方にはない独特のものです。町内のそば店や『川西交流館』などで、そば打ち体験もできます。
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