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世界で石見だけのユニークワイン
「ブラックトルネード」の真相

“奇跡のぶどう”と呼ばれるレアなブドウが、益田市にあるらしい。
「ブラックトルネード」と、その名前からしてなんだかスゴそう…‥!
そんな気になるウワサの真相を探りに、農や食に目のないモデルのShogoさんを誘って
益田市のワイナリーを訪ねました。

Shogo/岡田章吾
愛知県出身。自身が代表を務めるモデルエージェンシーVELBED.に所属し、ファッション誌、CM、広告などで活躍。東京と山梨県道志村の畑を行き来する生活を続ける。2021年に、都市と畑をつなぐプロダクトブランド「KEIMEN(カイメン)」を設立、ディレクターを務める。大の日本酒好きで野菜好き。もちろんワインも大好き。

ここでしか飲めないワインがあると聞いて

吉賀町での野菜をめぐる旅を終えたShogoさん。萩・石見空港へ戻る道すがら立ち寄ったのが、益田市にある「MONUKKA(モヌッカ)」。ここが例の幻のブドウ「ブラックトルネード」のワインをつくっているお店と聞いたのですが、看板にはパンとコフィチュールのお店…‥ってアレ? ワインはどこに?

実はこちらモヌッカは、1956年から3世代続くブドウ農家「田中葡萄園」から生まれたお店。自社の畑で育てた希少なブドウを贅沢に使ったコンフィチュールと、ハード系を中心とした絶品のパンを作っています。そして2015年には満を持してワイン醸造免許を取得、ブドウの名産地である益田市初のワイン醸造所が生まれました。その看板商品が例の「ブラックトルネード」ってワケなんです。

偶然の手違いから生まれた、奇跡のブドウ

「きっかけは偶然だったんですよ」と語るのは、ワイン醸造家にして田中葡萄園の3代目・田中祐己さん。聞けば、業者さんから届いた苗を4年かけて育てたら、見たことのない黒く小粒のブドウができたのだそう。「調べてもそんなブドウの品種は他にないですし、業者の方に聞いても何年も前のことでよくわからないと。困りましたが、ものは試しとワインを作ってみたら……これが美味しくてびっくり。綿菓子みたいな甘い香りと、野性味溢れる味わいを持つ、ものすごいワインができたんです」(田中さん)

田中さんとShogoさん。ぶどう畑の話で花が咲く。

まさにケガの功名。ハプニングから発見された新品種ブドウで作られた奇跡のワイン。石見で唯一どころか、世界でここだけでしか作っていないユニークさ。Shogoさんも興味深々です。そして気になるのが名前の由来ですが、なんと「ノリで名づけました(笑)」という意外すぎる回答……!
 
「手違いで紛れ込んだものだしと、軽い気持ちで名づけたんです。似た名前のお菓子がありますけど、あのイメージで(笑)。黒いですし房がうずまき状でトルネードっていうのも似合うかなと」と田中さん。たしかに、甘くてみんなに愛されるという意味では、例のお菓子に通じるキャッチーなネーミングな気も……!

夏の収穫シーズンになると倉庫の中で採れたてのブドウを販売。毎年、大勢の人が詰めかける。

そんな不思議な出自のブラックトルネードも、今や立派な看板商品。その人気の理由には、ブドウ畑からワイン醸造まで一貫して田中さんが手がけているということも、深ーく関係しています。ここでちょっと寄り道、現在のワインカルチャーのお話。

益田初の個性派「ドメーヌ」がスゴいワケ

ワイン作りのスタイルに「ドメーヌ」と呼ばれるものがあります。これは、畑の土づくりから、ブドウ栽培、ワインの醸造と熟成、瓶詰めに至るまで全ての工程を自園で行う生産者のこと。土からワインまで一貫して作るため、土地の風土(ワイン用語で「テロワール」)を反映しながら、醸造家の個性の現れたユニークなワインが生まれやすいのです。

ブラックトルネードに加え、アルバリーニョ、モンドブリエ、益田名産のデラウェアなど様々な品種のワインを醸造。

そんなドメーヌワインが近年は日本でも増え、各地の個性的な醸造家が注目を集めています。さらにはナチュラルワインのブームもありワインの楽しみ方が多様に広がっている現在。クラシックな名作ワインもいいけど、小規模でユニークなワインをカジュアルに飲むのも楽しいよね、なムードが今の気分。美味しいだけでなく、その背景にある作り手の想いや土地の風土を身近に感じ楽しむ文化が一般化してきていると言えるのです。

田中葡萄園で収穫したブドウ。約30種類ほどのブドウを育てている。

そんな自由さと個性を楽しむワインカルチャーの潮流から見れば、全国的にはあまり知られていない隠れたブドウの名産地である山陰・島根の石見地方。その地のローカルのブドウ園から生まれた世界で唯一のユニーク品種のドメーヌワインというのは、相当に際立った個性。探検心あふれるワインラバーならずとも、味わってみたくなるのでは?
 
Shogoさんもさっそくブラックトルネードを買おうとするも、なんと訪れたこの日すでに2022年仕込み分は完売! 少量生産によるこの希少性も幻たる所以。ですがご安心あれ、モヌッカでは他にもさまざまな品種のブドウを使った個性派ワインが揃います。

この日Shogoさんが選んだのは「ヤマソービニヨン」種のワイン。

後日Shogoさんにモヌッカのワインの感想を聞くと「どっしりした味わいで、満足感がありますね。お肉料理とか山の味に合う飲みごたえあるワイン。美味しくいただきました」とのこと。さらに、一緒に購入したコンフィチュールは「果肉がゴロゴロ入っていて、食べ応えがあってすごく好きでした。次は他の品種も食べ比べてみたいです」だそう。そして一言「やっぱり、ブラックトルネードは飲んでみたいですね……また行かないと」と心からの声が。

コンフィチュールは多い時は30種類が並ぶことも。ブドウ1品種から作るいわばシングルオリジンタイプで、食べ比べも楽しい。

幻のワインに出会うチャンスは毎年11月から

惜しくも入手できなかったブラックトルネードはじめ、モヌッカのボジョレーワインは毎年11月に解禁。お店で買えるのは現状、卸し先の販売店や飲食店を含め益田市内のみ。地域外ではほぼ手に入らない幻の逸品で、毎年すぐに売り切れるとのこと。まさに出会えたらラッキー。こんなユニークなお土産はなかなかないのでは? モヌッカは萩・石見空港から車で5分ほどの場所。空港へ戻る前にぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょう。

INFORMATION

モヌッカ/田中葡萄園

  • 住所:島根県益田市高津4-2-7 
  • TEL:0856-22-4901

Photography / Yuri Nanasaki
Editing & Text / Masaya Yamawaka

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