EDITOR'S PICKS 編集部のおすすめ
何もしない旅があったっていい。喧騒を抜け出して美しき別世界へ飛び立ち、旅先で時間を忘れてぼーっとする。そんなふうに過ごしたくなる宿が、萩・石見エリアにはある。東京 羽田空港から90分。さあ、辺境の一棟貸し宿 へ。

喧騒を離れた美しい土地、静けさを味わうための場所、自分だけの名もなき風景……これらの旅先を辺境と言うなら、萩・石見の旅は辺境こそが魅力。そんな辺境の贅沢を味えるおすすめの一棟貸し宿を紹介します。第一弾は土地と調和した美しい空間を味わう、こもりたくなる3つの宿です。
今回紹介する一棟貸し宿
小倉屋[島根県浜田市]
心地よい風が抜けてゆく 土間空間の広がる宿

萩・石見空港でレンタカーを借りて30分のドライブ。国道9号線を離れたあと、木漏れ日がキラキラと差し込む小道を抜けるとそこには日本海が。小さな港を囲む、赤瓦の集落にあるのが一棟貸し宿「小倉屋」。雨戸を開け、明かりをつけて待っていてくれたオーナーの齋藤慎介さんに、思わず「ただいま」と言ってしまいそう。

築110年にもなる古民家で、まずは雨戸や鍵の開け閉めを教わる。こんな珍しい体験ができるのも小倉屋ならでは。地面を掘り下げて作った土間の浴槽が宿のシンボル。水をためればプライベートプールになり、水によって空気の対流が生まれて風を呼び込む。だから、夏でもエアコンをつけずに気持ちよく過ごせるのだとか。「海水浴を楽しむなら、歩いて数分のところに素敵な場所がありますよ」と齋藤さん。曰く、子供の頃に見た景色がそのまま残されているそう。まるで、時の流れがゆっくりになったような長閑な海辺。のんびりとお散歩するのにもぴったり。
INFORMATION
小倉屋
住所:島根県浜田市三隅町西河内1029-2
TEL:090-7805-4479
Instagram:https://www.instagram.com/oguraya_iwami
閂168[山口県萩市]
築200年の蔵で、「極上の眠り」を味わう

山口県萩市の伝統的建造物群保存地区のひとつであり、美しい町家の面影が残る浜崎町へ。「閂168」は、江戸時代に建てられた海産物問屋の蔵をリノベーションした宿。「お客様から“こんなによく眠れたのは久々だ”といった、嬉しい声もいただいています」とマネージャーの小川優子さん。聞けば、もともと眠るための宿にしようという構想もあったとか。周辺の環境が落ち着いている上に、土壁が音を吸い込んでくれるおかげで、室内は驚くほど静か。窓は高い位置にひとつだけで、差し込む朝日は決して眠りの邪魔をしない。自然に目が覚めるまで放っておいてくれる……そんな懐の深さを感じる、築200年の蔵。極上の眠りをより堪能するなら、萩のグルメでお腹もいっぱいに。近所のローカルスーパー「キヌヤ」で新鮮なお刺身を買ってきて、萩ガラスのぐいのみに地酒を注ぐ。しっぽりタイムの始まりはじまり。

趣のある梁や土壁は、眺めているだけで心が穏やかになってゆく。テーブルの脚をよく見ると…‥まさか井戸!? 使えるものは生かしたいという、オーナーさんのユニークな発想に脱帽。ここに泊まると、まだ見ぬインスピレーションが湧いてきそう。京都の寝具店でつくられた特注の寝具に潜り込み、あっという間に夢の世界へ。チェックアウトは14時まで。時間を気にせず、ゆっくりとおやすみなさい。
cottage nil/noi[島根県益田市]
山陰ブルーの海を望む洞穴の宿

萩・石見空港から車で5分もかからず目的地に到着。三里ヶ浜にふたつ並んだ三角屋根が目印のnil/noi。それぞれに1日1組限りの一棟貸しコテージ。洞穴をイメージした室内は土壁に囲まれ、ほんのりと薄暗い。導かれるように明るい方へと階段を上がり、眼下に広がる山陰ブルーの海に思わず息をのむ。さらに、ソファに腰掛けると、窓の向こうには海と空しか見えなくなるトリックが! 「体の角度を変えることで、海が多めに見えたり空が多めに見えたりします」と設計を手掛けた、正田英一さん。自分好みの比率を見つけ、波の音を聴きながらずっと眺めていたい気分。

朝のコーヒータイムは、デッキで過ごしてみるのもおすすめ。同じ海辺にはカフェやコワーキングスペース、なんとサウナまである。わざわざ遠くへ出かけなくても、宿周辺で思う存分こもっていたい。石見にはいつも海を身近に感じられる暮らしがある。これが日常だなんて羨ましい。
INFORMATION
cottage nil/noi
住所:島根県益田市高津町イ2577-34
TEL:050-3448-4912
Instagram:https://www.instagram.com/nalu__cottage/
何もしないことが、忘れられない思い出になる。それが、萩・石見地方での一棟貸し宿に泊まる旅。美しい景色、静寂、そしてゆったりと流れる時間の中で、心身共にリフレッシュすることができるはず。忙しい日常から離れ、自分自身と向き合う貴重なひとときを過ごしてみては。
Photo /
Yuichiro Iwatani(小倉屋・cottage nil/noi)
Fushino Yoshioka(閂168)
Text / Megumi Tsukuba