ヤマタノオロチ


<第一章>ヤマタノオロチ退治

アマテラス大神が天の石戸から出て
世界が明るくなると、
八百万の神々は相談して、
スサノオ神に罪を償わせ、
高天原を追い払いました。

追い払われたスサノオ神は
オオゲツヒメ神に食事を乞いましたが、
オオゲツヒメ神の鼻や口や尻の穴から
おいしい食べ物を出しているのをみて、
汚い食べ物を自分に差し出しているのだと思い、
オオゲツヒメ神を殺してしまいました。

殺されたオオゲツヒメ神の身体からは、
蚕・稲・粟・小豆・麦・大豆が生えました
カミムスヒ神は、スサノオ神に
そこになった種を取らせました。

そして、高天原から追い払われたスサノオ神は、
出雲の国の肥の河のほとりの
鳥髪というところに降り立ちました。

その時、川の上流から
はしが流れてきたので、
「ここの上流に人がいるにちがいない」と思い、
人をさがして上流へ上っていきました。

しばらくいくと、
老夫(おきな)と老女(おみな)が、
娘をかこんで、泣いていました。

スサノオ神が聞きました。
「お前たちは誰だ?」と。
老夫が答えました。
「私は、国つ神の大山津見神の子で、
 アシナヅチと申します。
 そこにいるのは、妻のテナヅチと
 娘のクシナダヒメです。」

スサノオ神が
「どんな理由でそんなに泣いているのか。」
とたずねると、アシナヅチ神は、
「私には、もともと八人の娘がおりましたが、
 高志(こし)のヤマタノオロチが
 毎年やってきて食べてしまいました。
 今年も、またやってくる時期となり、
 それで泣いているのです。」
と答えました。

そこで、スサノオ神が
「そのヤマタノオロチはどんな姿をしているのだ」
とたずねると、アシナヅチ神は、
「オロチは、ほおずきのような赤い目をして、
 一つの胴体に、八つの頭、八つの尾があります。
 その体には苔(こけ)ばかりか、
 杉(すぎ)や、檜(ひのき)まで生えており、
 長さは、八つの谷をわたり、八つの山を越えるほどです。
 その腹はいつも血がにじんで、ただれています。」
と答えました。

それを聞いたスサノオ神は言いました。
「娘と結婚させてくれ。
 私が、オロチを退治してやろう。」

アシナヅチ神は言いました。
「失礼ですが、まだ、お名前さえ知りません。」
スサノオ神は答えました。
「私は、アマテラス大神の弟で、スサノオという。
 今、高天原から降ってきたところだ。」

アシナヅチ神は、言いました。
「おそれ多いことです。
 ぜひ、娘と結婚してください。」

スサノオ神は、さっそく、娘のクシナダヒメを櫛にかえ、
自分の髪にさして言いました。
 スサノオ神はいいました。
「では、まず何度も醸した八塩折の酒を作り、
また垣根をめぐらせて、八つの門をつくり、
その門ごとに台をつくって、
その台ごとに船のように大きな器に
八塩折の酒をたっぷりと盛っておきなさい。」

言われた通りに酒を準備して、
オロチが現れるのを、今か、今かと待っていると、
ごうごうという山鳴りとともに、
アシナヅチ神の言ったとおり、
ヤマタノオロチが現れました。

オロチは、酒をみつけると、
すぐに、八つの頭を、酒のはいった器に入れ、
酒を飲みはじめました。
酒を飲んだオロチは、酔いつぶれて、
寝入ってしまうと、
オロチは大きなヘビの姿をしていました。

ここぞとばかりに、スサノオ神は、
腰につけていた十拳剣をぬいて、
そのオロチをずたずたに切り散らし、
流れ出たオロチの血で、
肥の河は、真っ赤に染まりました。

オロチの中ほどの尾を切ると、
スサノオ神の剣の刃が欠けたので、
これはおかしいと、その尾をさいてみると、
そこから、りっぱな剣が出てきました。

これは、めずらしいものだと思い、
アマテラス大神に差し上げることにしました。
この剣をクサナギの大刀(たち)と言います。


<第ニ章>スサノオの子孫へ続く

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