オオクニヌシ


<第ニ章>根堅州国訪問

さて、八十神が
ヤカミヒメのもとを訪れて求婚すると、
ヤカミヒメは答えました。
「わたしは、オオアナムヂ神と結婚します。」

これを聞いた八十神は怒って、
オオアナムヂ神を殺そうとしました。

そこで、八十神たちは相談をし、
伯伎国の手間の山本に到着した時に、
オオアナムヂ神に赤猪をとらえるように言いました。

オオアナムヂ神が山のふもとで赤猪を待つと
八十神は、焼けた大きな石を転がし落とし、
オオアナムヂ神を焼き殺しました。

それを知った母神は、嘆き悲しみ、
天に昇って、カミムスヒ神にお願いして
サキカヒヒメとウムカヒヒメを派遣してもらい
オオアナムヂ神を生き返しました。

それをみていた八十神は、
またオオアナムヂ神をだまして山に誘い、
木の間にはさんで殺してしまいました。

それを知った母神は、再びオオアナムヂ神を生き返して
「おまえがここにいれば、
 やがて八十神に滅ぼされてしまう。」
と言って
木の国のオオヤビコ神のところへ
逃しました。

そこにも八十神が追いかけてきたのです。
オオヤビコ神は
オオアナムヂ神を逃がしながら言いました。
「スサノオ神のいる根堅州国へ行きなさい。
 きっと相談にのってくれるでしょう。」

根堅州国のスサノオ神の所にたどり着くと、
そこで、スサノオ神の娘であるスセリビメに会いました。

二人は出会った瞬間に、互いを好きになり、
結婚しました。

そして、スセリビメは、父のスサノオ神に、
「りっぱな方がいらっしゃいました」
と伝え、オオアナムヂ神を会わせました。

スサノオ神は、オオアナムヂ神をみると
「あいつは、アシハラノシコオというものだ。」
といいました。
アシハラノシコオとは
「葦原中国の勢いのある男」
という意味です。

スサノオ神は、オオアナムヂ神の力を
試してみることにしました。

まずスサノオ神は、
オオアナムヂ神を「ヘビの室(むろ)」で
寝るように命令しました。
そこには、ヘビがうようよいて、
今にもオオアナムチ神にかみつきそうです。

それを知ったスセリビメは、
肩にかけていたひれを渡して言いました。

「ヘビが、かみつきそうになったら、
 このひれを三度、ふってください。」

オオアナムヂ神が言われた通りにすると、
ヘビはおとなしくなり、
ゆっくり寝ることができました。

オオアナムヂ神が無事に「へびの室」から出ると
次にスサノオ神は、オオアナムヂ神を
「ムカデとハチの室」に入れました。

そこには、ムカデやハチがたくさんいて、
今にもオオアナムヂ神に襲いかかりそうです。

スセリビメは、また
肩にかけていた、ひれを渡して言いました。

「ムカデやハチがおそってきたら、
このひれを三度、ふってください。」

オオアナムヂ神が言われた通りにすると、
ムカデやハチは静かになり、
ゆっくり寝ることができました。

オオアナムチは、無事に「ムカデとハチの室」から
出ると、スサノオ神は、今度は
オオアナムヂ神を大きな野原に連れて行きました。
そして、音の鳴るかぶら矢を放ち、
探してくるように命令しました。

オオアナムヂ神が野原に入るやいなや、
スサノオ神は火を放ち、
オオアナムヂ神は、たちまち火に取りまかれました。

すると一匹のネズミが出てきて、言いました。
「内はほらほら、外はすぶすぶ」

オオアナムヂ神は、
「そうか!」
と気がつき、地面を踏みこむと
大きな穴があき、そこに落ちて、
隠れることができました。

火が燃えて通り過ぎてゆくと、
ネズミが音の鳴るかぶら矢を探して、
くわえて持ってきました。

その矢には、ついていた羽根がありませんでした。
矢の羽根は、子ネズミたちが全部、食べてしまったのです。

一方、スセリビメは、
オオアナムヂ神が死んでしまったと思って
泣いていました。

スサノオ神も、
「今回ばかりは死んでしまったか。」
と思って野原に立っていました。

そこへオオアナムヂ神が矢を持ち帰ってきたのです。
矢を返されたスサノオ神は、
オオアナムヂ神を家に連れて帰り、
八間田(やまた)の大きな室に招き入れて、
また命令しました。

「わたしの髪の中にいる、シラミを取れ」
オオアナムヂ神が言われた通りに頭をのぞくと、
その頭にいたのは、シラミではなく、
たくさんのムカデでした。

スセリビメは、むくの実と赤土を持ってきて、
オオアナムヂ神に渡しました。

なるほど、と思ったオオナムヂ神は、
むの実をかんで、赤土を口にふくみ、
いっしょにはき出しました。

スサノオ大神は、
オオアナムヂ神がムカデを一匹ずつ
かみ殺して退治している、と思い、
「なかなかかわいげのあるやつだ。」
と思って安心し、寝てしまいました。

「今だ、いっしょに逃げよう!」

オオアナムヂ神は、
スサノオ神の長い髪を
室の屋根を支える垂木に結びつけ、
大きな石で室の戸をふさぎました。

そして、スセリビメを背負うと、
スサノオの生大刀(いくたち)と
生弓矢(いくゆみや)と 、天の沼琴(ぬこと)を
持ち出して、逃げました。

逃げ出る時に、
琴が木に触れ、大地がゆれ鳴り響きました。

寝ていたスサノオ神は、聞き驚いて、
とび起きると、大きな室を引き倒しまいました。

スサノオ神が垂木に結ばれた髪をほどいている間に、
二人は遠くまで逃げていきました。
スサノオは、黄泉比良坂まで追いかけてきましたが、
はるか向こうに逃げていく二人に向かって
大きな声で言いました。

「おまえの持っている生大刀と生弓矢で八十神を追い払え。
 そして、オオクニヌシと名のり、
 スセリビメを正妻として
 宇迦山(うかのやま)のふもとに
 柱を太くして、屋根が天までとどくような
 宮を建てて住め。こいつめ。」

このようにして、オオクニヌシという名となった
オオアナムヂ神は、八十神を追い払い、
国作りをはじめました。

一方、結婚の約束をしていたヤカミヒメは、
約束とおりにオオクニヌシ神と結婚したので、
オオクニヌシ神に連れられてやって来ましたが、
正妻のスセリビメをおそれて、
子どもを木の俣(また)に置いて帰ってゆきました。
その子を名づけてキマタ神、
またの名をミイ神といいます。


<第三章>ヤチホコの神へ続く

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関連情報・注釈