オオクニヌシ


<第三章>ヤチホコの神

オオクニヌシ神は、
ヤチホコの神という名でもありました。

そのヤチホコ神は、
高志国(こしのくに)のヌナカワヒメに
求婚をしようと思って、出かけて行きました。

そしてヌナカワヒメの家の前で歌いました。
「高志国に賢い、美しい女神がいると聞いて
 やって来ました。
 戸が開かないので、戸を開けてほしいと
 戸を押したり引いたりしながら待っていると、
 鳥が朝を告げて鳴き出してしまいました。
 私の心の痛みを知らないで鳴く鳥なんて
 打ち殺して、鳴くのを止めさせたい。」

するとヌナカワヒメは戸を開けることなく
歌を返しました。
「ヤチホコ神よ。
 わたしは萎れた草のような
 か弱い女ですから、
 今は、わたしの心は、わたしのものですが、
 後には、あなたのものになってしまうでしょう。
 ですから、どうぞ鳥を殺さないでください。
 青々と生い茂った山に日が沈み、夜になりましたら
 朝日のような笑顔でおいでください。
 そう、むなみに恋い焦がれないでください。
 ヤチホコ神よ。」

こうして、ヤチホコ神は、やって来た夜は、
ヌナカワヒメに会うことができす、
明くる日の夜に、ようやく会うことができました。


それを知った正妻のスセリビメは、
とても嫉妬したので、
夫のヤチホコ神はひどく困って、
出雲から大和国においでなろうとしました。

いよいよ出かけようと、馬に鞍(くら)をかけ、
鐙(あぶみ)に足を片足をかけた時に、
ヤチホコ神は歌いました。
「愛しい妻よ。
 わたしが、出て行ってしまったなら、
 おまえは、うなだれて悲しむのだろうか。」

スセリビメは、酒を入れた杯をもって駆け寄り、
歌いました。
「ヤチホコ神よ。わたしのオオクニヌシ神よ。
 あなたは男ですから、あちこちに妻をお持ちでしょう。
 でもわたしは女ですから、あなたのほかに夫はありません。
 どうか、わたしと手足を伸ばして伸び伸びと休みましょう。
 さあ、お酒をお召し上がりくださいませ。」

こう歌って、酒を交わして誓いを結び
オオクニヌシ神とスセリビメは、
お互いの首に腕をかけて抱き合いました。
こうして今に至るまで出雲に鎮座することになったのです。

この歌を神語りといいます。


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