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萩への旅で萩・石見空港を使う人は多いだろう。空港から萩へ移動するには、バスと電車を使ってもいいし、車を飛ばしてもいい。どちらにしても急げば1時間ちょっとで萩市街へ着く。でも、ありきたりの忙しない観光旅行に飽きているなら。あるいは十分に旅慣れた大人なら。萩への移動は、寄り道を楽しむスロードライブをすすめたい。
空港から萩市街までロードトリップの始まり

羽田からのフライト時間は約90分。萩・石見空港に着いてレンタカーを借りればロードトリップのはじまりだ。さっそく萩へ向かうのは野暮というもの。最短を目指す旅は味気ないし、ものには順序というものがある。まずはドライブに必要なブツを手に入れないことには、話は始まらない。もちろん、美味いコーヒーである。
旅のスタイルにこだわるなら、コーヒー選びは重要だ。旅先では特にローカルの店を選びたいし、抜群に美味しくないとダメだ。純喫茶の重厚なブレンドもいいけれど、今日みたいなドライブには、シングルオリジンのとびきりのやつをテイクアウトしたい。
ドライブ前はクリクリコーヒーに寄る
萩・石見空港からほど近い益田市街にうってつけの店がある。車で10分ほどで着く「栗栗珈琲(クリクリコーヒー)」は、俳優の甲本雅裕さんも映画の撮影中に通ったというローカルの名店。自家焙煎の豆をハンドドリップで淹れてくれるし、ハンドピックで豆の品質管理まで徹底的にやっている。
例えばエチオピアのイルガチェフェはもちろん浅煎りで、ウォッシュトとナチュラルから選べると言えば、好きな人なら感じがわかると思う。とにかく真面目に手間を惜しまず、良質で美味しいコーヒーを提供すると思ってもらえればいい。今日はスマトラのマンデリンのドリップコーヒーをオーダー。南国らしいフルーティーな風味が、晴れの日の気分によく似合う。
休むなら、誰もいない穴場の海で

空港から萩に向かってドライブする。それはつまり、日本海沿いの国道をのんびりと流す、ということを意味する。やってみるとわかるけど、これはかなり気持ちがいい。ただハンドルを握っているだけで、穏やかな気分になる。石見の国道がサイクリストやバイカーに人気なのも納得がいく。
ちなみに日本海と言っても、多くの人がイメージする荒波ザパーンのアレとは違う。石見の海はむしろ、白砂のビーチやサーフスポットが点在するレイドバックなムード。「山陰ブルー」なんて言葉もあるように海は青く澄んでいる。視界に人工物も少なく風景は穏やかだ。特におすすめは「持石海岸」。ほぼ地元民しか知らない美しい海岸で、首都圏の海水浴場みたいなガヤガヤした人混みは、ここでは皆無だ。
海上に浮かぶ「衣毘須神社」へお参りする

さらに車を走らせて「衣毘須(えびす)神社」に立ち寄る。小さな島にぽつんと神社が建つ、かなりフォトジェニックな風景が見られる。その姿から「山陰のモンサンミッシェル」と呼ぶ人もいて、たしかに何か異名をつけたくなるような神々しさがある。
参拝するには引き潮の時がいい。島へ通じる道が現れるから歩いて渡ることができる。家族や恋人と白浜の参道を渡って参拝するのは楽しいし、旅というのは、そうやって大切な誰かと一緒に歩き、同じ風景を眺めることでもある。
山口の至宝「大島みかん」で喉をうるおす

旅の移動中に、みかんが食べたくなるのはどうしてだろう。喉が渇いたら、道の駅やスーパーに寄って、「大島みかん」を試してほしい。民俗学者・宮本常一の故郷でもある、山口県「周防大島」でつくられるブランドみかんで、とにかく甘くてジューシー。ちょっと中毒性を感じるほど、美味い。
地元の人に聞くと、「いろいろなみかんを食べたけど結局コレが一番美味しい」という。地元の人と同じ空気の中で、同じものを食べる。旅では、そうした地味でなんでもないことが、忘れられない思い出になるものだ。
萩に到着、さてどうやって過ごす?
萩への道中をやっかいな移動時間と考えるか、旅のアトラクションと考えるかで、気分は大きく変わる。萩・石見空港と萩の間には、他にもいろいろあって、例えば温泉とキャンプサイトがある快適すぎる道の駅とか、透明なイカ刺が有名な店とか、立ち寄る場所には困らない。もちろん萩市街にも、玄人好きするディープな場所が数えきれないほどある。
英語に「Go with the flow」という言葉があって、旅慣れたネイティブの人がしばしば使う。直訳すると「流れに身を任せよう」という感じで、そうやって気ままな移動ができるのはドライブ旅の醍醐味だ。流れに任せて動いた結果、想定外のことも起こるかもしれない。逆に派手なイベントに出会わず、地味な時間を過ごすことになるかもしれない。でも、「それもまた旅の良さだ」と思えたなら、その旅はきっとうまくいくし、素敵な思い出として長く記憶に残るはずだ。
Photography Yuri Nanasaki
Text Masaya Yamawaka