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大名茶人・不昧公ゆかりの茶室「明々庵」で松江のお茶文化を体験!

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2023年04月05日 公開

松江市民の暮らしに欠かせないのがお茶。観光で松江を訪れるなら、当地の “茶の湯文化” を実際に体験してみませんか。
おすすめしたいのが、国宝松江城から徒歩10分弱の場所にある「明々庵」です。武家屋敷などが並ぶ塩見縄手の高台にあり、城見台からは入母屋破風が美しい天守閣を抜群のロケーションで望むことができます。
城下町の風情を感じながら、抹茶や和菓子をいただいたり、出雲流庭園を歩いたりして、松江ならではの文化を味わってみましょう。
※入母屋破風・・・三角屋根の部分。千鳥が羽を広げたような曲線の屋根のことをいう。

松江の “茶の湯文化” とは

茶の湯文化の礎築いた大名茶人、不昧公


写真左:大名茶人・不昧公(松平治郷)

松江に茶の湯文化を広めたのは、松江藩松平家7代藩主・松平治郷(不昧公)。藩の財政改革に注力する一方で、当代一の茶人として、作法やしきたりに縛られ過ぎない独自の流派「不昧流」を確立しました。
肩肘張らない茶道は庶民にも親しまれ、同時に和菓子文化も醸成。令和の時代の今も、松江の一般家庭では日常的に抹茶や和菓子が楽しまれています。

そんな松江の和菓子は数々の賞を受賞するなど評価が高く、味はもちろん目でも楽しめる芸術品として多くの人に愛されています。

客人への心遣いが感じられる趣深い「明々庵」

入口からおもてなしの心

体験の舞台となるのは、不昧公の好みによって1779年に造られた「明々庵」。武家屋敷などが並ぶ塩見縄手から高台に向かって歩くと、趣きのある植え込みに挟まれた階段が見えてきました。通常より蹴上(階段の高さ)が低く、幅を広めにとってあるのは、着物や袴で茶室に向かうお客様への心遣いだとか。茶室に入る前から、おもてなしの心を感じることができます。

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城見台から望む国宝松江城

階段を上ると左手に、入母屋破風が美しい天守閣が視界に入ってきました。別名千鳥城と呼ばれる荘厳な「松江城」です。明々庵の城見台からは、電線やビルなどの人工物を全く介さずに国宝松江城の風景を楽しむことができます。

松江城についてはこちら

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二つの家紋が彫られた灯篭

城見台の一角にある古い灯篭には、家紋が二つ描かれています。一つは、徳川家の家紋「三つ葉葵」。そしてもう一つが、治郷の正室の実家、伊達家の家紋「竹に雀」です。二つの家紋がある灯篭は珍しく、ぜひチェックしてみましょう。

明々庵併設のお座敷「百草亭」で、不昧流を体験

枯山水の美しい庭園

入口で受付を済ませて案内されたのは、「明々庵」に併設されたお座敷「百草亭」。

広々とした部屋の正面には、枯山水の美しい出雲流庭園が配されており、効果的に配置された飛び石やきれいに刈り込まれた木々、そしてそれぞれの絶妙なバランスが生む世界に思わず言葉を失います。

支配人の方から「何かの漢字が見えてきませんか」と尋ねられました。日本の庭はお座敷からの眺めで何らかの漢字を表現したものが多いとか。百草亭に臨む庭に描かれた漢字の一画目は、左端にある梅。答えは、ぜひ現地で聞いてみてくださいね。

「明々庵」支配人に聞く。不昧公が広めたおもてなし文化

「客の心になりて亭主せよ。亭主の心になりて客いたせ」と説いた不昧公。茶の心はおもてなし――ということで、まずはお辞儀の仕方を教えてもらいました。

茶道に触れる

お辞儀にはいくつもの種類がありますが、お茶やお菓子をいただく際には深く腰を曲げ、最も丁寧な「真」のお辞儀で相手に敬意を伝えます。

腰を下ろすのは、畳の縁より約24センチ内側。人によっても違いますが、手のひらを広げた時の親指と小指にあたるそうです。この縁から膝までのスペースが、自分の “お盆” です。縁の奥に置かれた茶碗や菓子は、自分の “お盆” に引き入れてからいただきます。

定石に頓着しない不昧流

普段は正座すらあまりしないもの。初めての作法にどぎまぎしていると、支配人の方がにっこり笑って緊張をほぐしてくれました。

「定石やしきたりに頓着しないのが不昧流。作法は知っておくと便利ですが、一番大事なのは楽しむことです。不昧公は『お好きにどうぞ』とお茶をすすめていましたよ」

いよいよお茶席体験スタート!

所作のお話を聞いたら、お茶席体験のスタートです。“お盆” のスペースを意識して正座すると、まずは和菓子が運ばれてきました。煎茶と違い、味が濃く、苦みがあるお抹茶をいただく際には、口の中を甘くするため、最初に和菓子を食べきります。

漆器に載った菓子が畳に置かれると、深くお辞儀をして器を両手で縁の内側に引き入れ顔のあたりまで持ち上げます。相手に感謝の思いを伝える動作だそうです。続いて、クロモジ(菓子楊枝)でひと口大に菓子を切っていただきます。甘さ控えめの上品な風味が口の中いっぱいになりました。

季節を先取りした生菓子

この日の生菓子は、桃の花をかたどった薄いピンク色の練り切り。庭では梅が咲き始めていましたが、季節を先取りする和菓子の世界では少し遅れて見頃を迎える桃が出されるとのことです。見ているだけで春めいた気分に包まれます。

甘くなった口中に広がる「抹茶」の旨味

空になった漆器を畳の外に出すと、間もなくしてお抹茶が運ばれてきました。

器には、向きがあります。畳に置かれた際には、真正面を向いているため、器を少し回して正面をずらし、お抹茶を口にします。和菓子で甘くなった口の中に広がるほどよい苦み。お抹茶を美味しくいただけるようにと考え抜かれた和菓子の甘さと、お茶のタイミングに感動します。

最後の泡は吸い切って「ごちそうさま」

数口飲んだ後に残った泡は、1回だけ音を立ててシュッと吸い切ります。この音が、亭主に伝える「ごちそうさま」のメッセージになるとのこと。しかしあくまでも音を立てるのは最後の1回切り。覚えておきましょう。

抹茶を楽しんだ後は器を鑑賞

茶碗そのものを鑑賞したい時は、器が空になってから。貴重な器が破損しないよう肘と膝をつけて器を手にします。ポイントは、器の正面を自分の方に向けること。無地の椀では、刻印が左手になる位置が正面です。

器の全体をよく見ると色合いや肌合い、風情などが場所によって異なります。持ちやすさや手の馴染みやすさなども感じてみましょう。

明々庵、出雲流庭園を鑑賞

低い門をくぐって庭園へ

お抹茶を堪能した後は、座敷を降りて庭園の門へ向かいます。江戸時代後期に設計されているため、門の高さも現代より低くなっています。

不昧公好みの茶室「明々庵」を見学

厚い茅葺きの入母屋造り

大名茶人、松平不昧公が29歳の時、自ら指示書を書いて造らせたのが茶室「明々庵」です。雨雪を防ぐため、厚い茅葺きと長めの庇が用いられた入母屋造り。寄棟と切妻を組み合わせた重厚な造りは、耐久性や耐風性に優れているのが特徴です。

狭い茶室は主客を親密に

お茶をいただく「本席」は、「二畳台目(にじょうだいめ)」と呼ばれる、二畳と4分の3の大きさの畳を組み合わせただけの狭いスペース。戦国時代、お茶席は武士の密談の場にも使われました。千利休の流れをくむ茶道を学んだ不昧公は、亭主と客が親密な関係を作れるコンパクトな設えを取り入れたのです。

茶室内に上がることはできませんが、にじり口から近距離で覗くことはできます。通常の茶室より柱や壁が少ないのは、「お客様に広々と快適に過ごしてほしい」という不昧公の思いが反映されているとのこと。ここでも定石にとらわれない不昧公が垣間見えます。

不昧公直筆の掛軸も

扁額(へんがく)には、不昧公直筆の「明々庵」の字が記されています。現在は文字が薄れていますが、茶室内には同じものが掛軸として掲げられており、芸術的な不昧公の文字を見ることができます。

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茶室の手前にも注目

茶室の手前にあるベンチのような設備は、お客様が亭主のお迎えを待つ腰掛待合。そしてその奥には、飾り雪隠(せっちん)があります。本物の厠(かわや)ではなく、美しく保っている雪隠を見せることで奥の茶室も行き届いていると暗に伝えるのが目的です。
※雪隠・・・トイレを意味する言葉

出雲流庭園を歩く

続いて庭園へ。平庭に枯山水・茶室・飛び石・常緑樹のみなどの特徴を持つのが不昧公の好んだ設えで、その影響を受けたものが現在は「出雲流庭園」と呼ばれています。雨雪が多い土地柄。足元が濡れないよう、飛び石は通常より高めに配置されています。

懐深い不昧流のおもてなし

和菓子に始まり、庭や茶室に至るまで随所に施された気配り。「しきたり」や「作法」という言葉にまとわりがちな茶道のイメージが一新され、すべて意味のある「おもてなし」だと知ると、普段の生活にもつながるような気がしました。

不昧公が薦めたのは、定石にとらわれすぎず、気楽に楽しめる茶の湯文化です。70分の体験プログラムでは、おもてなしの心遣いを最優先した不昧公の想いに触れ、お茶やお菓子を美味しくいただくことができました。茶道に対する敷居が低くなったような気がします。

令和の時代にもつながる不昧公の心。松江に来るならぜひとも体験してほしいプランの一つです。


今回のレポートで紹介したのは、不昧流のおもてなしからお茶席での作法や庭園鑑賞まで、詳しい説明を聞きながらお茶席体験が出来る「『明々庵』特別ご案内コース」(70分1500円、要予約)。200円を追加すれば、自らお点前に挑戦することもできます。

【申込受付】※電話受付のみ
山陰中央新報社 文化事業局 TEL: 0852-32-3468


明々庵

〒690-0888 松江市北堀町278[map
TEL:0852-21-9863
10~3月:8:30~17:00(入館16:40まで、お抹茶受付終了16:00)
4~9月:8:30~18:30(入館18:10まで、お抹茶受付終了16:30)

観覧料:大人410円、中学生以下200円/抹茶一服410円
※予約なしでも抹茶をいただけます。
※明々庵の銘入りの特注抹茶椀や、松江三大銘菓なども購入可。

 

お土産にもおすすめ!松江の和菓子とお抹茶を気軽に味わう

■ 松江三大銘菓

不昧公が考案・命名した3種の菓子は「松江三大銘菓」として、松江市内の和菓子店で作られています。緑鮮やかな「若草」、春の菜畑を表現した「菜種の里」、紅葉の山と川が対になった「山川」。お茶処松江で欠かせない3アイテムは、島根県物産観光館など市内のお土産店などで購入できます。

和菓子

■ 松江のカフェやお茶屋さんでも気軽にお抹茶を楽しもう

不昧公が礎を築いた茶の湯文化は今も、松江市民に浸透し、市内各地に抹茶や和菓子を楽しめる店舗が点在します。本格派からカジュアル系までさまざま。季節や店によって楽しめる味も違うので、はしごする価値アリです。

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