2020年12月18日 公開
島根県松江市のシンボルとして愛されている松江城。全国で現存する12天守の中の一つで、2015年(平成27年)7月に国宝に指定されました。築城から400年の時を経て、今もなお迫力あるその姿を間近で見ることができます。 一年を通してさまざまな情景を見せてくれる松江城の、訪れる前に知りたい歴史から、武者ガイドによるオススメポイント、周辺観光情報まで余すところなくご紹介します。
松江城は400年以上前から、壊れたり燃えたりすることなく当時のままの姿を残している現存12天守の一つです。また、その中でも姫路城・彦根城・松本城・犬山城と並び、国宝に指定されている5城の一つとしても貴重なお城です。
松江城入り口で迎えてくれるのは、戦国武将として名を馳せた「堀尾吉晴(よしはる)」の銅像。その息子・忠氏(ただうじ)が、関ケ原の合戦で功績を挙げたことにより、堀尾氏は月山富田城(安来市広瀬町)に入り出雲国を治めていきます。しかし、立地や交通の便などが悪く、統治をより良くするため城地移転を計画。宍道湖の東端に位置し、城下町を見晴らすことができる亀田山に、5年の歳月をかけ1611年(慶長16年)松江城を完成させます。
吉晴の孫・忠晴(ただはる)が初代城主となり、その後、京極氏、松平氏と松江城の歴史を繋いでいきます。
明治時代、「廃城令」によって全国のほとんどの城が取り壊されることになり、松江城天守は180円(※当時は、米1俵3円)で売却される予定でした。その窮地を救ったのが、地元の豪農家・勝部本右衛門父子と旧藩士・高木権八たち。自らの私財を投じて天守を買い戻し、見事松江城を守ったのです。その後、市民の寄付で天守の大修理が行われ、地元の人たちの支えによって現代まで残り続けました。
左:松江神社 右:祈祷札
松江城はもともと国宝の指定を受けていましたが、法改正により一度外されてしまいます。国宝に返り咲くべく、ここでも市民と研究者が立ち上がります。2012年(平成24年)、天守そばにある松江神社で、松江城が完成した年に祈祷に使われたと思われる2枚の「祈祷札」が発見されます。
祈祷札で建築年代は明らかになりましたが、松江城のものだという確証はありませんでした。そんな時、天守地階の柱に祈祷札が掲げられていた釘痕が奇跡的に見つかります。2枚ともぴったり一致した点や、貴重な資料も認められ2015(平成27)年、国宝に再指定されたのです。
天守地階に展示中:2枚のレプリカ
天守地階には「祈祷札」のレプリカが飾られています。天守の柱にしっかりと打ち付けられた当時の姿を再現しているので、ぜひ観賞してみてください。
天守全体を眺めてみると、外観は4重、内部は5階地下1階付きの構造。高さは、石垣を含め約30m、天守のみが約22mになります。現存する12天守の中で姫路城、松本城に次いで3番目の高さ、天守の総床面積は姫路城に次いで2番目の大きさです。
松江城は美しい外観だけでなく、攻守に優れた構造をもち、戦に備えた工夫が随所に凝らしてあるのも特徴の一つです。
千鳥が羽を広げたような曲線の屋根を「入母屋破風」と言い、それが東西南北の四方に乗っていることから別名「千鳥城」と呼ばれるにようになったと言われています。
また最近では、築城当時「千鳥破風」と呼ばれる屋根の装飾があった可能性が出てきており、それが名前の由来になったという説も。歴史ロマンを感じさせるエピソードですね。
今回特別に、武者に扮した『まつえ時代案内人』が松江城をご案内!松江城は実践本意の造りで、守りと攻撃の両方に優れた特徴があります。当時の目線で、解説を聞きながら城内を巡るとより分かりやすく魅力を知ることができ、ガイドブックに載っていない見どころポイントまで教えてくれますよ。
事前に予約をすると武者姿の『まつえ時代案内人』が松江城を案内してくれます。合言葉は “天下一やさしいお城ガイド”。お城に詳しくない方からコアなお城好きの方まで楽しく城内を巡れる解説をしてくれます。それでは、いざ出陣です!
城内に入ると広い「馬溜(うまだまり)」があり、高さ13メートルの石垣が目の前にそびえ立ちます。隠れる場所がない馬溜では、石垣の上にある狭間から鉄砲や弓矢で集中攻撃ができ、敵の侵入を防ぐことができます。重要な防衛場所のひとつなのです。
天守へ続く「本坂」を登っていくと、石垣をより近くで見る事ができます。松江城のみどころの一つでもある石垣は、築城時に有名な石積み職人によって築かれました。全体の6割を「打ち込み接ぎ」という崩れにくい石積み手法が使われ、今もなお多く残ります。
この「本坂」には、自然に削られてできた「ハートと亀」の形をした可愛らしい石垣があるので、ぜひ注目してみてください。
城内の石垣をよく見てみると、模様が刻まれた石を見つけることができます。この刻印は、築城の際に目印や魔除け、安全祈願の意味を込め刻まれたと言われています。五芒星や扇の形をした刻印など種類が豊富にあるので、どんな刻印を見つけ出せるかチャレンジしてみましょう。
入口から階段を登って奥に進むと、石垣に囲まれた「地階」に着きます。そこでひときわ目をひくのが、大きな「井戸」。これは、籠城戦を想定し、飲み水確保のための井戸を地階に設けたという築城戦略のひとつです。天守内の井戸は名古屋城や浜松城にもありましたが、現存しているのは松江城のみとなりとても貴重なものです。
展示中の鯱:[左]雌[右]雄 ※天守の上にある鯱とは逆に配置されています。
松江城は、木彫り銅板張りの鯱が2頭、天守の頂上に鎮座しています。天守に向かって左側はうろこが荒い雄、右側が雌であり、高さは2.08m(雄)もあります。なんと日本現存の木造の鯱の中では日本一の大きさ。古い鯱が地階にて展示されており、近くでその大きさを実感できます。
天守内の階段は、狭くて急なため、上ってきた敵を攻撃したり、突き落としたりするのに非常に有効です。引き戸も付けられており、開口部を塞ぐことで敵の侵入を防ぐ策が施されています。また、階段の素材は防火や防腐の効果ある「桐の木」が使用されています。
天守最上階は「天狗の間」と呼ばれ、室内には壁がなく城下町を360度展望できるつくりです。周りに高い建物もないため、天気がよい日には美しい宍道湖を一望できるスポットとしても人気。当時は、敵の監視や攻撃に備えるための司令塔としての役割もあったと言われています。歴代の松江藩主たちもきっと眺めたであろう松江の絶景を存分に堪能しましょう。
天守内には、攻め込まれても戦えるような仕掛けが至るところにたくさんあるのじゃ。いくつ見つけられるか、いざ尋常に勝負でござる!
[その壱]石垣に近づく敵を鉄砲や石などで攻撃する「石落とし」
[その弐]鉄砲や矢を放つために設けた「狭間(さま / はざま)」
[その参]石垣を切り抜いている隠し部屋「石打棚」
松江城の築城時は、どこも城を建てる建築ラッシュ。資材がどんどん不足していくなか、松江城はさまざまな技巧を凝らし新たな建築構造で見事な城を築城したのじゃ。まことあっぱれでござる!
心柱のような大きな柱は使わず、2階分の長さの通し柱をバランス良く配置することで、荷重を分散させるという当時の先進的な技法が採用されています。天守の柱308本の柱のうち96本が互入式 通し柱です。
左:分銅紋に「富」の字の刻印をもつ木材 右:包板
月山富田城の「富」と堀尾家の家紋「分銅紋」が融合した刻印が施されている木材は月山富田城から運ばれ、松江城築城に再利用されたと考えられています。また、天守を支える柱には、周囲を板で包んだものがあります。この板は「包板(つつみいた)」と呼ばれ、鎹(かすがい)や鉄輪(かなわ)で留めて柱を補強するためのものとされます。
城内には、「ハートの石垣」以外にも隠れたハートスポットがあります。天守内のある柱には珍しいハートの木目が隠れていたり、ハートを逆さにした模様が施されている門や甲冑などもあります。古来よりこの逆さハート模様は 「猪目(いのめ)」と呼ばれ、火除け・魔除けの意味があるとして建物だけでなく、身に着けるものにも刻まれていました。
まつえ時代案内人が松江城をご案内する「まつえ時代案内人と巡る登閣ツアー」は松江観光協会に事前申し込みが必要です(有料)。よりディープに松江城を楽しみたい!という方はぜひチェックしてみましょう。
<毎週土曜日> ※定時コース 10:00~/13:30~
≫ 「最強の城」を攻める!松江城郭ガイドツアー【武者ガイド・松江城登閣】の詳細はこちら
<上記以外> ※事前ご予約の上、希望日にご案内
≫ 松江城など観光施設ガイドの詳細はこちら
国宝 松江城
〒690-0887 松江市殿町1-5
【営業時間】
[本丸開門時間]4月1日~9月30日 7:00~19:30/10月1日~3月31日 8:30~17:00
[天守入場時間]4月1日〜9月30日 8:30~18:30(受付 18:00まで)/10月1日~3月31日 8:30~17:00(受付 16:30まで)
【登閣料】大人680円/小・中学生290円
【お問い合わせ】松江城山公園管理事務所 TEL:0852-21-4030
【関連動画】≫ 島根の絶景 松江城の朝日
お城ファンの間でブームになっているのが「御城印」集めです。松江城の御城印は歴代藩主の家紋をデザインしたものと、路上詩人こーたさんが1枚ずつちがうメッセージを書き下ろした2種類が販売されています。旅の記念になること間違いなし!
ぶらっと松江観光案内所前の販売機
“武者のまち”松江ならではのおもしろい自動販売機もあります。武者のイラストが描かれた迫力ある自動販売機は、ドリンクや「御城印」を購入すると武者の声が流れます。何をしゃべるかは買ってからのお楽しみ!山陰の山城を記した「古城印」や、松江城ゆかりの戦国武将の名前が入った「御将印」も購入可能です。松江にしかない自動販売機なので、こちらも旅の思い出にぜひ。
販売所の詳細はこちら
≫ ぶらっと松江観光案内所
≫ 松江観光協会公式ホームページ
街中にありながら豊かな自然に囲まれた松江城は、季節を通じて美しく風情ある姿を見せてくれます。その時期でないと見られない景色や、感じられない体験が訪れる人の心を魅了します。
松江城山公園は「日本さくら名所100選」に選定され桜の名所としても有名。ソメイヨシノやヤエザクラなど約190本の桜が咲き誇ります。3月下旬~4月上旬の見頃に合わせて「お城まつり」も開催。
毎年4月に開催。松江開府の祖・堀尾吉晴公とその家臣一行が松江城に入城する様子を再現しています。まるで400年前にタイムスリップしたかのような、絢爛豪華な行列は見ごたえあり!
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枝先いっぱいに真っ白な花をつける通称「なんじゃもんじゃ※」。見頃は5月上旬。満開時は、初夏らしい緑の中に美しい”白い花”が爽やかに咲き誇ります。※正式名称:ヒトツバタゴ
秋になると松江城周辺の木々が一斉に色づき色づき始めます。美しい紅葉に囲まれた松江城は一見の価値あり。また、そんな風景を水上から眺めるのもおすすめ。お堀を巡る堀川遊覧船もあわせて楽しみましょう。
秋の風物詩、松江城周辺をライトアップする光のイベント。松江城や堀川周辺に2000個以上の行燈が並べられ、ライトアップされた松江城とともに、古き良き城下町松江ならではの幻想的な景色が楽しめます。
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冬になり雪が降ると、松江城は白く染まります。城壁の黒と白く輝く雪のコントラストは、荘厳で格別の美しさ。まわりの木々も雪化粧をまとい、まるで絵画のような情景に出会えます。
二の丸上の段に鎮座する松江神社。松江神社は松江城とゆかりが深く、松平直政公(松平初代藩主)をはじめ、松江を築き上げた偉人たちが祀られています。また、狛犬も特徴的で頭を下げ、腰を上げている「構え型」の姿は出雲地方ならではです。ご縁を結ぶといわれるハート型の絵馬※も人気。
※ハート型の絵馬は、興雲閣やぶらっと松江観光案内所などで販売中
1903年(明治36年)に建てられた迎賓館。島根県指定有形文化財にも指定されており、華麗な仕上げは、明治時代にタイムスリップしたような佇まいです。館内では、赤絨毯の階段で撮った写真がSNS映えすると、ひそかな撮影スポット。また、「亀田山喫茶室」ではレトロな洋館の雰囲気を味わいつつひと息できるのが魅力です。
松江城大手門近くにある観光案内所です。松江城や周辺施設のパンフレット、松江城関連のお土産などが並んでいます。松江城に精通したスタッフが、季節ごとの見どころやおすすめのグルメ・観光スポットなどを紹介してくれます。観光前にぜひお立ち寄りください。
松江城を取り囲んでいるお堀を遊覧船で巡る「ぐるっと松江堀川めぐり」。全長約3.7kmのコースを、船頭さんのガイドを聞きながら約50分周遊できます。
乗船場は、松江城近くの大手前広場(殿町)、松江堀川ふれあい広場(黒田町)、市内のカラコロ広場(京店商店街)の3カ所にあり、一日に何度も乗船が可能。途中下船も可能なので市内観光と組み合わせて楽しめます。
普門院橋をこえてから宇賀橋までの間が、松江城が一番きれいに見えるスポットです。堀川の水面、重厚な石垣、美しい松の緑と青空の間に浮かぶ勇壮な松江城天守は、この船上だからこそ見られる絶景。ベストショットをぜひ写真に収めてください。
その他にも、低い橋を通過するスリル満載な場所など、各エリアごとに特徴があるので何度乗船しても楽しめます。季節ならではの秋の夜間運航、冬の「こたつ船」も見逃せません。
「堀川遊覧船大手前乗船場」内にあるテイクアウト専門のカフェ。島根の食材や果物を使ったオリジナルドリンクやスイーツを提供しています。ここでぜひ味わいたいのが「松江城ホリデー」。カラフルでかわいいスイーツと堀川の景色は一緒に写真を撮りたくなる映えポイント。
フタができるドリンクは遊覧船に持ち込みも可能なので、船の上でゆっくりドリンクを堪能するのもおすすめです。
【営業時間】9:00~17:00 ※冬季変動あり
【定休日】水曜日
【お問い合わせ】TEL:0852-40-9214
≫ 公式Facebookはこちら
松江城北側のお堀に沿った通りを「塩見縄手(しおみなわて)」と呼びます。江戸時代から残る老松や歴史ある建物が並び、城下町の情緒を感じられます。松江市伝統美観保存地区に指定されており、「日本の道100選」にも選定。
≫ 詳細情報はこちら
江戸時代、中級武士が入れ替わり住んでいた「武家屋敷」。調査により明治期の姿を復元しています。室内には当時使われていた家具調度品や生活用具が展示され、武家の暮らしぶりを知ることができる施設です。
≫ 詳細情報はこちら
松江は、京都・金沢と並んで茶処・菓子処としても有名です。それには、茶の湯文化を築いた松平家7代藩主松平治郷(不昧公)の功績が大きいといえます。
不昧公が好んだ和菓子、春の「若草」、秋の「山川」、そして「菜種の里」は、「不昧公お好み」三大銘菓として、今でも親しまれ市内の老舗店で受け継がれています。お作法が難しいイメージのあるお抹茶も、気軽にカジュアルにいただけるのが松江流。ぜひ松江の “茶の湯文化” を体験してみてください。