2018年06月29日 公開
全国に数ある一級河川のなかでも「日本一」と言われるほどの水質を誇る清流「高津川」。
良質な「天然鮎」の産地として知られ、例年6月には鮎釣り・鮎漁が解禁されます。山から海へと流れながら、沢山の恵みをもたらす高津川はまさに食の宝庫。
今回は旬を迎えた「鮎」を中心に、国内でも屈指の清流が育む高津川の食をピックアップします。
高津川は、島根県西部を流れる全長81kmの一級河川。広島県境の吉賀町から津和野町日原を経て、益田市の日本海へと注ぎます。
水源は樹齢1,000年を超す巨樹の根元に湧く泉「大蛇ケ池」。この名前は神話に由来したもので、素戔男尊(スサノオノミコト)に討たれた八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の魂が宿るという、神話の国・島根らしいエピソードがあります。
高津川は国土交通省の水質調査で「清流日本一」に幾度となく選ばれており、一級河川でありながらダムの無い、日本では珍しい川です。
高津川の鮎は各地を食べ歩く食通からの評価も高く、その味わいは随一とも言われています。また、最上流部で栽培されるワサビは西日本最大の産地として知られるほか、河口沿岸で獲れる大型の天然本ハマグリ「鴨島蛤」も味・サイズ共に格別。山から海に至るまで食の恵みに満ちた清流、それが高津川なのです。
高津川で獲れた天然の鮎
古くから夏の味覚として愛されてきた鮎。秋に卵が孵化すると、川の流れと共に海へと下り、プランクトンなどを食べて成長した後、3月から4月頃に再び川へと上ります。川に遡上した鮎は岩に生える苔を主食として成長します。
苔は川の水質や流れによって状態が大きく変化します。川の水質を表す苔を主食とする鮎は、川によって味わいを変える「川の環境を映す魚」。鮎の魅力として挙げられる「香り」に加えて、「旨味」や「食感(身質)」も生息する川の環境で大きく異なります。
ダムのない高津川では、森林から流れ出る清流が保たれることで良質な苔が育ちます。その苔を食べる鮎は極めて香り高く、それでいて強い旨味も兼ね備えています。地元の詳しい方に聞けば、同じ高津川でも本流と支流で鮎の味に違いがあるといいます。本流は旨味が強く、支流の匹見川では香りがよりさっぱりとしているそうです。
この上ない環境で育まれる高津川の鮎。地域では、その魅力を知り尽くした料理人の手により提供されています。地物の鮎を洗練された料理で味わえるのも高津川の魅力のひとつです。
今回訪れたのは高津川の鮎をコース料理で堪能できる津和野町の「割烹 美加登家」。鮎は高津川の本流で獲れたものに絞り、さらに日原から横田あたりまでのエリアで獲れたものに限定して仕入れるそうです。高津川の鮎の中でも、厳選されたものをいただくことができます。
鮎の背ごし(割烹 美加登家)
骨の柔らかい鮎のお造りと言えば「背ごし」。厳選された鮎の背ごしは、品のある素晴らしい香りを楽しむことができます。甘み・旨味に続く、ほどよい苦味がキリッと味を引き締めた後、鮎本来の爽やかな香りの余韻に包まれます。
鮎の塩焼き(割烹 美加登家)
鮎は料理人の経験と技が物を言う繊細な魚。特に「塩焼き」は素材の良さのみならず、焼きの技術に味が大きく左右されます。美加登家さんの塩焼きは完璧とも言える調理によって焼き魚のイメージさえも変えてしまう逸品。
頭はカリッと、皮はパリッと、身はホロホロとしっとりに焼き上げられ、頭から尻尾まで丸ごとリズミカルにいただけます。「背ごし」や「塩焼き」は定番の料理であるが故に、高津川の鮎の素晴らしさを素直に伝えてくれます。
鮎めし(割烹 美加登家)
その他にも「鮎の清汁仕立て」や「うるか茄子」など創作的な料理に鮎の奥深さを感じます。鮎が旬となる季節、コース料理は基本的に鮎のみで構成されており、極上の鮎をさまざまな料理で堪能することができます。
そしてコースを締めくくるのが「鮎めし」。鮎は丁寧に骨が取り除かれており、味付けのみならず調理も繊細。お米は一粒一粒が鮎の香り・旨味をまとい、最後の一口まで楽しませてくれます。
割烹 美加登家
美加登家さんでは鮎の旬を過ぎると、同じく高津川の幸として知られる天然のスッポンやツガニをはじめ、秋は島根県産の松茸、冬にはフグなど季節の味を楽しむことができます。
元々は料理旅館であったため建物は趣深く、非日常的な雰囲気に満たされます。県内に限らず、遠方から足を運ぶ人も多い名店として知られています。
〒699-5221 島根県鹿足郡津和野町日原221-2 [MAP]
TEL:0856-74-0341(要予約 ※2名より)
【営業時間】11:30~13:00(入店時間)/ 17:00~19:00(入店時間)
【定休日】毎週月曜日
【詳細リンク】 ≫ 割烹 美加登家(津和野町観光協会)
高津川の鮎を語る上で欠かせないのが漁師さんや漁協の存在。漁協では高津川で獲れた鮎を買い取り全国に出荷しています。島根県内のみならず、築地の仲卸や東京・神奈川の料理店とも直接取り引きをされています。
高津川漁協
鮎の宝庫と言われる高津川といえど残念ながら漁獲量は年々減っており、10年前は15トンあったところ、数年前の水害で7~8トンに減り、2016年は3トンまで減少。理由は鮪のような乱獲ではなく、大雨などの自然災害による影響が最も大きいそうです。
高津川の鮎は例年6月上旬に解禁され、10月中には禁漁になります。近年では資源保護の観点から禁漁が前倒しされ、「落ち鮎」と呼ばれる子持ち鮎の漁獲が控えられています。また、産卵場の造成や稚あゆの放流などの取り組みも積極的に行なわれています。
子うるか(左)とうるか(右)
高津川漁協では鮎の加工食品も作られています。代表的な製品は鮎の肝を用いた「うるか」。旨さの秘訣は手間と時間。新鮮な天然ものをたっぷりと使い、瓶で3年間じっくり熟成させます。
熟成による旨味成分の変化を科学的に調べると3年目以降にアミノ酸が増加して美味しくなるそうです。「うるか」だけでなく「子うるか」も美味しいので、あわせて食べるとより味わいを楽しむことができます。
地元では甘露煮はあまり作らず、一夜干しや鮎鮓などシンプルな料理で食べることが多いそう。お正月の雑煮には鮎出汁を使うことが地域の定番として親しまれています。
漁協では「うるか」をはじめ、「鮎味噌」や「焼干し鮎」など、お土産にもぴったりな品が揃います。津和野町の「道の駅・シルクウェイにちはら」や「萩・石見空港」などでも鮎の加工品が販売されており、東京のアンテナショップ「にほんばし島根館」でも手にすることができます。
高津川の鮎は漁師、漁協、料理人の方をはじめとする地域の人々により大切に届けられます。そして、高津川はその恵を育みながら日本海へと注ぎます。河口となる益田市では高津川のみならず、日本海の幸も楽しみのひとつです。
居酒屋巡りで著名な太田 和彦氏をして「日本一の居酒屋」と称された益田市の「田吾作」。2017年で開店50年を迎えた名酒場として知られています。高津川の鮎のみならず、上質な日本海の幸をいただけます。
鴨島蛤の酒蒸し(田吾作)
日本海へと繋がる河口に「鴨島」と呼ばれる所があり、「鴨島蛤」は高津川と益田川に挟まれた幅1.5kmほどの浜で育ちます。7cm未満のものは獲る事が出来ず、出漁時間や漁獲量が規制されている貴重なブランド蛤。田吾作では極上の蛤がシンプルに調理され、素材本来の旨味が引き出されます。
鮮度抜群の真イカの刺身(田吾作)
山陰の名物として知られる「イカ」。夜釣りの漁船に灯る漁火の光景もこの地域ではおなじみの景色です。イカは鮮度が重要。鮮度によって味わいと食感を大きく変えます。
生け簀で元気に泳ぐ日本海のイカ
田吾作では専用のタンクを備えたトラックでイカを仕入れ、店内の大きな生け簀で管理されます。これほど鮮度の良いイカの刺し刺身にはなかなか出会えないはず。素材への拘りは一際で、他の素材も抜群の美味しさである事は言うまでもありません。
高津川の鮎の塩焼き
もちろん、高津川の天然鮎も食べることができます。香りに富み、旨味もしっかりした鮎は夏のご馳走です。
腰掛料理 田吾作
また、お店オリジナルの日本酒「田吾作」も人気のひとつ。このお酒を造る地元の「桑原酒場」さんは、高津川からの清らかな伏流水を仕込水として使用されています。昨今の流行であるフルーティな香りや甘みを追求したお酒ではなく、硬派なお酒が特徴で魚の味を引き立てます。
〒698-0034 島根県益田市赤城町10-3 [MAP]
TEL:0856-22-3022
【営業時間】12:00~14:00/17:00~
【定休日】不定休
【詳細リンク】 ≫ 公式ホームページ
山から海へ、川の流れと共に育まれる自然の恵。日本有数の清流「高津川」は、食文化豊かな島根を象徴する存在です。