2024年08月27日 公開
島根県の代表的な民謡・安来節。そして、安来節といえば、「あら、えっさっさー」の合いの手、鼓と三味線のリズミカルな音色に合わせて、豆絞りをかぶり、ユーモラスたっぷりに踊る「どじょうすくい」は全国的にも有名です。2017~2018年に放送されたNHKの連続テレビ小説「わろてんか」でも登場し、お茶の間を湧かせました。
今回はそんな、歴史ある伝統芸能の魅力が楽しめる安来市の観光施設「安来節演芸館」の見どころを中心に、安来節の特徴や鑑賞時のポイントなどをまとめてご紹介。知られざる民謡の魅力をひも解いていきましょう。
安来節発祥の地・安来に建つ安来節演芸館
日本一の庭園と評価される「足立美術館」から徒歩約5分。昔の芝居小屋をイメージした白壁造りの建物が存在感のある「安来節演芸館」。安来節発祥の地・島根県安来市に、安来節をいつでも気軽に楽しめる施設として2006年に誕生しました。2024年にはより広く島根の文化を発信する拠点としてリニューアル。
土日祝を中心に楽しめる「安来節公演」をはじめ、展示コーナーや地元特産品が揃うお土産処など、安来節はもちろん当地の魅力あふれる人気スポットです。
山陰唯一の桟敷(さじき)席のある演芸ホールでは、週末(土日祝)に1日2回の定期公演を開催。三味線や鼓、太鼓の演奏と唄をバックに、ユーモラスな踊りで有名な「どじょうすくい男踊り」、銭太鼓や皿踊りなど、本場ならではの安来節を体感できます。
本場の安来節公演を間近で鑑賞
「安来節」は島根県を代表する郷土民謡で、幕末から明治時代にかけて安来の地で誕生しました。その起源には土地特有の産業が大きく関係しています。
古くから島根県の奥出雲地方では、豊富な砂鉄や木材を生かした伝統的製鉄法である「たたら製鉄」が盛んに行われており、技術の進歩に伴い江戸時代後期には日本屈指の鉄の生産地になりました。
奥出雲で生産された鉄や米は、日本海に通ずる天然の良港「安来港」から、北前船で全国各地へ運ばれました。こうして江戸時代後期の安来は、鉄をはじめとする物資の交易地として大いに栄えたのです。
安来節の家元四代目 渡部お糸
当時、北前船の寄港により賑わう安来の町では、船乗り達により民謡の交流が盛んに行われ、「佐渡おけさ」や「追分節」などがよく歌われていました。それらの民謡を元に「おさん」という芸妓が、「さんこ節」として独自のアレンジで歌ったものが人気となり、これが安来節の原形になったといわれています。
その後、各地の民謡の影響を受けながら風土に磨かれ、明治初期に完成の域に到達した安来節は出雲地方で大流行しました。さらに大正時代になり、渡部佐兵衛の娘で家元の初代渡部お糸が三味線の名手富田徳之助と一座を組んで全国巡業を行うと、各地で大好評を博し、安来節を一気に全国区に押し上げたのです。
安来節といえば、真っ先に思い浮かぶほど、切っても切り離せないのが「どじょうすくい踊り」。そのはじまりは、安来の若者達がどじょうを小川から捕ってきた後に開いた酒宴にありました。
どじょうを肴に酒を呑み、酔いが回ると、どじょうを掬う時の動きを面白おかしく踊り、その場を盛り上げて楽しんだそうです。この踊りが安来節のリズムによく合い、次第に安来節の踊りとして大衆にも親しまれるようになったと言われています。
はじめはローカルで楽しむものだった「どじょうすくい踊り」も、明治~大正にかけて安来節が全国的に人気を集めるにつれて進化していきます。「男踊り」と「女踊り」に分かれるなど、表現も豊かになり、安来節には欠かせない人気のお座敷芸として確立されたのです。
「男踊り」は、豆絞りの頬かむりに一文銭の鼻当てというおなじみのスタイル。大きなザルを持ち実際に鰌を採る姿を面白く踊り笑いを誘います。
また、踊りに基本的な流れはあるものの、固定された型や決まりは特にありません。踊り手それぞれのオリジナリティが織り交ぜられ、野趣に富んだローカル色豊かなものが好まれます。
基本的な流れは、まずは頭にザルをかぶって登場。足を使いザルの中へ追い込みながらどじょうをすくい上げ、腰カゴに入れると、にっこり満面の笑み。
と思ったらポロリとこぼれて大脱走!逃げたどじょうを追いかけて四苦八苦、ようやく捕まえて、再びニコリと笑顔。ところがふと気づけば、足にヒルが付いているではありませんか!
つまんでヒルを投げ捨てようとするも、今度は手にくっつき大慌て……!なんとか投げ捨てて一安心。最後はご機嫌で手を振りながら退場~というコミカルな展開です。
表情豊かで愛嬌溢れるひょうきんなしぐさで、客席には自然と笑いが湧き、和やかな雰囲気に包まれます。また単に面白いだけでなく、しっかりとリズムを捉えた所作は女踊りと同様に美しく品格が備わっています。
鼓と三味線の軽快かつ独特なリズムに、様々な民謡の影響を受け誕生した新しくもどこか懐かしい唄の節回し。そして、どじょうすくいの「男踊り」と「女踊り」。
それぞれの演技が互いの魅力を引き立てあう安来節は技芸に優れ、多くの人の心を掴み全国的なブームとなったのです。
どじょうすくい「女踊り」の誕生は大正5・6年ごろ。日本舞踊における五大流派のひとつ、西川流の小川静子(安来検番の師匠)により振付されました。「女踊り」は、カスリの着物に姉さん被りの手ぬぐいとたすき、前掛け姿の可愛らしい衣装が特徴。
どじょうを捕る姿を滑稽に表現した「男踊り」の一方、「女踊り」はどじょうすくいを「舞踊」として表現したもの。小さなザルを手にリズムに合せて女性らしく優美に軽快に踊ります。雅やかに手を扇ぐ姿が印象的な品のある舞踊です。
※定期公演で見られるのは「男踊り」のみです
さらに、今日の安来節に欠かせない余芸に「銭太鼓」があります。銭太鼓は出雲地方に古くから伝わる独自の楽器で、竹筒の中に取り付けられた銭がシャンシャンと鳴る音を利用したリズム楽器です。
現在、越後地方や九州、中国山地の奥地にも銭太鼓が残っていますが、元は出雲地方から流れたものという説があります。
両手に持った銭太鼓を勢いのある見事な手さばきで回転させながら振ったり、床に打ち付けて演技します。溜めとキレのあるリズミカルな音と動きにはとても迫力があります。戦後、安来節の余芸として演じられるようになり、どじょうすくい踊りと共に定番の魅力として人気を集めています。
土日祝限定で「安来節保存会」による定期公演を開催中。11時20分と13時20分の1日2回公演・各40分、予約不要で本場の民謡を鑑賞できます。安来節の生演奏、銭太鼓、どじょうすくい踊り(男踊りのみ)に加え、参加型の「どじょうすくい体験」も。
定期公演のほか、不定期で約400年の歴史を有する出雲地方の伝統芸能「出雲神楽」の公演などを実施予定。公演情報は「安来節演芸館」公式サイトで事前に確認しておきましょう。
公演の最後には約10分間の「ちょこっと体験コーナー」があり、鑑賞客の中から先着5名は「どじょうすくい男踊り」を体験できます。まずは頭に豆絞り手ぬぐいを巻き、鼻には一文銭を装着。その後、踊り手から手ほどきを受けながら、実際に「どじょうすくい」を踊っていきます。
見ている分には笑える楽しい踊りですが、腰をひょこひょこと動かしながら歩く動作など、実際にやってみると難しく、踊り手の凄さを実感できます。写真の撮影も大丈夫なので、思い出づくりにもぴったりです!(※女踊りの体験はできません)
【定期公演鑑賞料】大人1000円、小中生500円、未就学児無料
【開催日】土日祝
【時間】11:20~12:00、13:20~14:00
【スケジュール】≫公式サイト(公演企画)
※20名以上の団体に限り、平日公演も受付
館内にはお土産コーナーもあり、安来市を代表する名物「清水羊羹」をはじめとする、地元のお菓子や伝統工芸品が並びます。
もちろん安来節グッズも購入できます。絣の着物に前掛け、豆絞り手ぬぐい、ザルや腰カゴ、銭太鼓など、どじょうすくいの衣装や小物、さらに練習DVDやCDまで個性的なグッズが揃います。その土地ならではのお土産も、安来旅の思い出にぜひいかがでしょうか。
安来節演芸館には公演を楽しむホールのほかにも、安来節にちなんだ展示コーナーがあります。民謡の特徴や歴史を紹介するパネル展示、安来節のレコードがずらり。安来節の魅力をより深く知ることができます。
【住所】島根県安来市古川町534
【お問合せ】TEL:0854-28-9500(10:00〜17:00)
【営業】10:00〜17:00(定休日:火曜日 祝日の場合、翌日休館)
【関連リンク】≫ 公式サイト ≫スポット情報
隣接する「月ノ和」では、山陰地方の食材を用いた料理をお楽しみいただけます。島根を代表するご当地グルメ・出雲そばをはじめ、うどん、海鮮丼、定食を用意。ランチタイム以降はカフェ使いもでき、季節のモチーフがかわいい上生菓子などでひと息つけます。
TEL:0854-28-8411
[営業時間]11:00~16:00(ランチ11:00~14:30)
[定休日]月曜
地元の魅力たっぷりの安来節演芸館は周辺の観光スポットも見逃せません。庭園日本一の「足立美術館」や、天下の名城として知られる「月山富田城跡」、開山587年の名刹「清水寺」。また、御殿湯として栄えた歴史ある「鷺の湯温泉」をはじめとする良質の天然温泉を楽しむこともできます。歴史・風土豊かな安来の魅力をぜひ満喫して下さい。