2022年09月01日 公開
「クラフトビール」とは、小規模な醸造所(ブルワリー)で造られるビールのこと。大手ビールメーカーにはない個性的なラインナップで近年、全国的にブームとなっています。
ここ島根県でも、地域に根差した醸造所が8ヶ所点在。独自の醸造方法で全国から熱視線を集めるブルワリー、地域の特産品を使ったビールなど、それぞれで新しい取り組みを続けています。
味の違いで選ぶのはもちろん、ラベルデザインがユニークなボトルも多いので、インスピレーションに任せてパケ買いするのもおすすめ。オンラインショップで買うのもいいけれど、せっかくなら島根旅と合わせて、自分好みのビールを探しに現地へ行ってみてください!
▸ 【江津市】石見麦酒
▸ 【益田市】高津川リバービア
▸ 【浜田市】FARMER’S BREWERY 穂波
▸ 【出雲市】出雲多伎ブルワリー
▸ 【出雲市】Izumo Brewing Co.
▸ 【出雲市】3rdbarrelbrewery
▸ 【松江市】松江ビアへるん(島根ビール)
▸ 【松江市】大根島醸造所
島根県西部の江津市は“東京から一番遠いまち”とも言われるエリア。さらに、その市街地から離れた山あい、温泉リゾート「風の国」敷地内に全国から熱視線を集めるブルワリー「石見麦酒」があります。工場長の山口さんは学生時代、菌類・発酵を専攻し、大手味噌メーカーへ就職。その後、鳥取県智頭町でクラフトビールを製造する「タルマーリー」と出会い、クラフトビール業界へ。
ビール醸造計画を立てるも、製造に使う機材はどれも大型で高額。どうにか費用を抑えられないかと考案したのが、ポリ袋と冷蔵庫を使った独自の醸造方法、通称・石見式。山口さんいわく、全国にあるクラフトブルワリー600社あまりのうち、およそ1割が石見式を導入しているそう。現在も全国各地から視察や問合せも相次ぐ、島根が誇る新進気鋭の醸造方法なのです。
島根西部のグルメ界隈で話題の醸造所なだけに、「これを使って欲しい!」とのリクエストも多々。これまでに使用したフレーバー(副原料)は約60種あり、スイカ、しじみ、八朔など、バリエーションも多彩です。今後は瓶ビールから缶ビール中心に切り替え、より手軽に飲んでもらえるよう準備中。ますます目が離せない「石見麦酒」、緑豊かなロケーションの中、樽生ビールをゴクリいただくのもおすすめです。
【写真】左:セッションIPA151 中央:石見神楽麦酒 -神舞- 右:過疎
セッションIPA151
津和野町産シークワーサーと江津市産夏みかんの皮を使用。フルーティーな味わいが格別。
石見神楽麦酒 -神舞-
石見地方のハチミツを加えて発酵。香り高く力強い飲み口。「道の駅ごいせ仁摩」ほか石見地方でのみ販売。
過疎
益田市発祥とされる言葉「過疎」を商品名にしたユニークなビールは、味も独特な風味。瓶詰は地元スーパー「キヌヤ」でのみ購入可。
築160年の古民家の一角を活用し、2021年から醸造をスタートさせた「高津川リバービア」。益田市を流れる高津川は、水質日本一に幾度も輝いた清流であり、マスカットやクロモジ、ゆずなど、水域には上質な素材もいっぱい。ビールの命とも言うべき水、そして独自性をもたらす副原料のバリエーションの豊富さ。高津川流域はクラフトビール造りに必要な要素が揃った好適地なのです。
島根県内にある醸造所の中でも特に、地域密着型の色が濃いブルワリーであり、使用する副原料の産地は高津川流域がメイン。中でも益田市匹見町で育ったハーブのような樹木「クロモジ」を使ったビールは、インターナショナルビアカップ2021で銀賞を受賞した実力派。珍しいだけでなく、実直なビール造りで地域内外から多くの支持を集めています。
クラフトビールは土・日曜であれば、樽生ビールを味わうことができ、それ以外の営業日でも瓶詰ビールの販売を実施。その場で栓を開けていただくのもいいですね。
どれも素材の風味が活きたビールばかり、高津川流域の情景を思い浮かべながら一杯いかがでしょう。
【写真】左:クロモジギャルド 中央:空港はちみつエール 右:益田マスカットエール
クロモジギャルド
クロモジを使った爽やかな香りの一本。ナッツやドライフルーツと合わせてゴクリ。
空港はちみつエール
「萩・石見空港」で育ったハチミツと、酵母の重厚な香りが秀逸。最近のトレンド商品。
益田マスカットエール
益田市産のシャインマスカットを使用。スッキリとしたホワイトエールで、食前酒におすすめ。
■ 買えるお店
≫grappino(出雲市)
≫Fruits moritani(益田市)
≫益田市内のキヌヤ各店(益田市)
■ 飲めるお店
≫田吾作(益田市)
≫寿し処みのり(益田市)
≫鉄板ダイニング Taishi(益田市)
〒698-0041 益田市高津2-1-18
TEL:0856-32-9641
[営業時間]10:00~17:00 [定休日]月・火曜、ほか不定休あり
≫公式サイト
2021年にリニューアルオープンした浜田市の観光拠点「はまだお魚市場」。海産物を中心に、海の街の魅力を発信する基地で、野菜×ビールのおいしい出会いを提供しているのが「FARMER’S BREWERY 穂波」です。
クラフトビール界隈でも珍しい、農家によるクラフトビールブルワリー、その主戦場はやはり畑やビニールハウス。オーガニック野菜を栽培する「三島ファーム」が運営し、現在9種類あるビールのうち6種類に、手塩にかけた自社栽培の農作物を使用しています。
また、農家発ブルワリーの自由な発想を活かしたお酒造りも特徴。有機安納芋をふんだんに使ったビールに、有機栽培米をビール酵母で醸造した「海辺のどぶろく」など、農家ならではの“田畑推し”が魅力的です。
店頭では瓶詰めビールの購入のほか、併設の「BEER STAND HONAMI」で樽生ビールをいただけます。浜田市の新名物「鯖ドッグ」と合わせて味わってみて。そのほか、朝採れの新鮮野菜も販売されているので、定番海産物と合わせて、浜田土産の候補にぜひ。
【写真】左:穂波ブラック 中央:穂波イチゴ 右:穂波八朔
穂波ブラック
地元産の黒豆、麦芽を贅沢に使用したスタウト。ガツンとくるコクとうま味が詰まっています。
穂波イチゴ
農場で収穫したいちごとホップによってトロピカルな風味に。フルーティーさの中に苦みもキリリ。
穂波八朔
苦みは控え目だけど、ホップの香りと八朔のジューシーさが後を引きます。男女問わず人気が高い。
■ 買えるお店
≫おみやげ森トピア(江津市)
≫道の駅ゆうひパーク浜田(浜田市)
≫浜田市観光協会特産品販売所(浜田市)
■ 飲めるお店
≫surfer’s kitchen TERA(浜田市)
≫珈琲屋 Yori荘(松江市)
〒697-0017 浜田市原井町3050-46 はまだお魚市場1F
TEL:080-1900-3471
[営業時間]10:00~16:00 [定休日]火曜
≫公式サイト
代表兼ブリュワーとして、醸造所を切り盛りする石田さんは益田市の出身。転勤で出雲市内へ引っ越したことを機に、多伎町周辺のコバルトブルーの海、夕日の美しさのトリコに。そして2022年、自身のビール好きも高じて、海を感じられるこの場所に、小さな醸造所をオープンさせました。
オープンして間もないため日々、試行錯誤。その中で生まれたビールの中には、夕日をイメージした香り豊かなペールエール、地元産ヤマモモを使った一本など、地域の特色を活かしたものもいろいろ。「夕日を眺めながらカンパイできたら最高」と話すだけに、家の中で飲むよりも、ベランダや海辺といった屋外でいただくのが「出雲多伎ブルワリー」ビールの楽しみ方なのかも。
小ぢんまりとしたお店ながら店内にはイートインスペースも完備。営業時間内であれば、いつでも生ビールを味わえます。今後は店先の空きスペースを使ったイベントも画策中とのこと。
そのほか、多伎町の特産品であるイチジクを使ったビール開発、休耕田を活用したホップや大麦作りなど、新興ブルワリーのネクストチャレンジに注目を。
【写真】左:アメリカンペールエール 中央:ヤマモモ茶ビール 右:黒ビール
アメリカンペールエール
柑橘系の爽やかな香りが特徴。イギリス産モルトのコクとホップの苦味のバランスが絶妙です。
ヤマモモ茶ビール
多伎町産のヤマモモ茶を加えたビールはスッキリと飲みやすい。魚料理やサラダと合わせてどうぞ。
黒ビール
焙煎したイギリス産モルトのコクとロースト香を楽しめる大人な味わい。意外とチョコレートとの相性も良し。
〒699-0901 出雲市多伎町久村120-1
TEL:0853-77-2089
[営業時間]10:00~18:00 [定休日]不定休
≫公式Instagram
「出雲から、飲んだ人を“OH!”と言わせるビールを作りたい」そんな思いでスタートした「Izumo Brewing Co.」。長らくマイクロブルワリー文化が途絶えていた出雲で、ビール本来の持ち味や魅力を発信。副原料をあえてあまり使わず、麦芽とホップのブレンドや使用量などで独自性を追求しています。
直球ど真ん中を進む王道ブルワリーの主力はIPAとIZUMOシリーズ。特に主原料となるホップを大量に使ったビール・IPAはイチオシ。香りや苦みが際立っているのが特徴で、世界で愛されているビアスタイルのひとつです。これらに加えて期間限定ボトルも登場。現在、新たなシリーズ開発に向けて模索中とのことで、今後の動きからも目が離せません。
「Izumo Brewing Co.」では醸造所に併設したブルーパブのほか、出雲大社門前で「Izumo Brewing Co. TAISHA」も運営。こちらでは和牛串などと合わせて、おいしいビールが味わえますよ。醸造所併設のブルーパブなら、自社製品のみならず各地のクラフトビールも。お土産選びはもちろん、注ぎたての味わいも楽しんでみて。なお、瓶販売は醸造所隣のオフィスと、ECサイトでのみ購入可能。
【写真】左:Punkish IPA 中央:IZUMO BARLEY 右:IZUMO BELGIAN
Punkish IPA
複数のホップを贅沢に配合。トロピカル感がありつつ、爽やかな苦味を感じられる仕上がりに。
IZUMO BARLEY
甘みを帯びたカラメルのような香りが秀逸。微炭酸&ハイアルコールなので、炭酸が苦手な人、日本酒やウイスキー好きにおすすめ。
IZUMO BELGIAN
スパイスと出雲産柚子の皮を使ったホワイトエール。柑橘系ホップと小麦麦芽による華やかな香りがふわり。
■ 買えるお店
≫Izumo Brewing Co. 隣のオフィス
■ 飲めるお店
≫Izumo Brewing Co. TAISHA(出雲市)
≫カフェ&ビストロ あん(出雲市)
≫出雲縁結び空港内カードラウンジ(出雲市)
〒693-0001 出雲市今市町703-1
TEL:0853-31-9231
[営業時間]17:00〜22:00
[定休日]年中無休 ※来店前に ≫Instagram をご確認ください。
[関連リンク]≫Izumo Brewing Co. TAISHA(観光スポット情報)
出雲市・木綿街道は、古くから木綿の流通で栄えた町。また、醤油蔵、酒蔵も点在する醸造文化が息づく町でもあります。その中で、醤油、酒につぐ「第三の醸造所」として2022年に誕生したのが「3rdbarrelbrewery」。かつての呉服屋を改装し、古い建物はそのままに、最新の醸造設備を導入。通りを歩いていると建物内・外のギャップに驚かされますよ。
素材選びはもちろんのこと、特筆すべきはその醸造方法です。仕込み・発酵・熟成の3工程を完全に独立。これにより各工程に集中し、気温・湿度といった些細な変化に対応できます。加えて機材の洗浄も徹底。商品の品質を守るため、工程や素材選び以外の雑音の排除にも余念がありません。
ブルワリーを切り盛りするのは若手の2人組。若手ブリュワーが醸すやわらかい雰囲気も相まって、今では木綿街道の地域コミュニティの拠点に。常連からの意見はすぐに取り入れ、商品開発にも活用。オープンから1年経たない新ブルワリーながら、飲んだ人の声に耳を傾けることで、着実に品質アップがされています。
店頭では量り売りの生ビールや瓶ビールを飲むことも可能。週末にはお隣のイタリアンレストランから特別なおつまみが販売されることも。
【写真】左:舵 ~rudder~ 中央:YO-EN -妖艶- 右:WAVY -ウェイビー-
舵 ~rudder~
グレープフルーツのような爽やかな甘みがポイント。立ち上げ時からの看板銘柄です。
YO-EN -妖艶-
新しく主軸に加わったペールエール。スパイシーさの中に甘さが漂う“妖しい”味わい。パケ買い必至。
WAVY -ウェイビー-
瓶の中で発酵するタイプのビール。スッキリとクセはなく、特に洋食との相性がバッチリ。
■ 買えるお店
≫3rdballel shop(出雲市)
≫北村酒店(出雲市)
≫リカーショップ アンボア(大田市)
■ 飲めるお店
≫高濱庭園(出雲市)
≫Taste-Brooklyn Dining(出雲市)
≫trattoria 814(出雲市)
移転しました。
〒699-0701 出雲市大社町杵築東463-1(BSKK内)
≫公式サイト ≫公式Instagram
クラフトビールが“地ビール”と呼ばれていた、1999年4月から醸造を続ける、島根のビール界における古豪。国宝・松江城からほど近い一等地にあり、多くの観光客が訪れています。醸造所が入居する「松江堀川・地ビール館」の店先ではホップも栽培していて、年に一度、摘み取り体験のイベントも。ビール文化を波及させる広報マンとしての役割も担います。
「いかに若いファンを獲得していくが課題」と話す代表の矢野さんが掲げるのは、日本の気候や日本人の舌に合うビール造り。日本では栽培が難しいとされるホップの試験栽培、地元産大麦や、多種多様な島根特産品・農産物の活用。日本らしく、それでいて島根ならではの唯一無二のビールを醸造しています。
現在のラインナップは定番4種と、月替わりで登場する限定2種。「松江堀川・地ビール館」では、商品の購入のほか、飲み比べも楽しめますよ。島根の素材、風土、人との繋がりを活かしたビールは、松江ゆかりの文人を冠した屋号通り、物語のように飲むほどに世界観の沼にハマっていくはず。
【写真】左:ビアへるん -ヴァイツェン- 中央:どぶろくビール おろち翠 右:山椒ホワイトエール
ビアへるん -ヴァイツェン-
なめらかな味わいとクリーミーな泡立ちが特徴。ご当地キャラ「しまねっこ」ラベルはお土産におすすめ。
どぶろくビール おろち翠
大田市にある酒蔵「開春」の酒米麹と清酒酵母を使用。日本酒好きに飲んで欲しい軽やかな飲み口。
山椒ホワイトエール
雲南市の生の青山椒を使った一本。青山椒特有の爽やかでピリッとした味わいがクセになります。
■ 買えるお店
≫松江堀川・地ビール(松江市)
≫島根県物産観光館(松江市)
≫一畑百貨店 出雲空港店(出雲市)
■ 飲めるお店
≫松江堀川・地ビール(松江市)
≫Standing bar S-PARK(松江市)
≫Taste-Brooklyn Dining(出雲市)
〒690-0876 松江市黒田町509-1 松江堀川・地ビール館内
TEL:0852-55-8355
[営業時間]9:00~17:00/松江堀川・地ビール館:9:30~17:00
[定休日]土・日曜/松江堀川・地ビール館:火曜
≫公式サイト
店内にずらりと並んだボトル。オープンから1年で24銘柄を開発・販売し、それらには地元民でもあまり知らない素材も多用されています。この仕掛人こそ「大根島醸造所」の代表・門脇さんです。門脇さんは元々、地域の特産物を使ったアイスや日本酒を販売されていた方。次なる一手として目を付けたのが、少量多品種を醸造できるマイクロブルワリーでした。
松江市島根町の岩ガキ、美保関町のみかん、鹿島町のトマトなど、知名度こそ低いものの、素材としては一級品な地域食材を積極的に使用。その中には規格外品として処分される予定だったものも多く、現在はサステナブルな考え方として注目されています。特に最近、地元銘菓のまんじゅう入りビールを開発した際は、各方面で大きく話題に。
クラフトビールのほか、リキュールやどぶろくも製造。とりわけ、どぶろくは全国的な品評会で優秀賞を受賞し、以降、冬の販売時には早々に売り切れるほどの人気商品に。門脇さんによれば「まだまだ副原料のストックはあります」とのこと。主力のIPAのほか、今後も島根産素材を用いた意外性のあるビールが、続々とリリースされていきそうです。
【写真】左:FULL THROTTLE IPA 中央:どじょう掬いまんじゅうエール 右:YAKUMO クラフトビール
FULL THROTTLE IPA
醸造所すぐ近くにある観光地・ベタ踏み坂(=フルスロットル)にちなんだ銘柄。6種類のホップを贅沢に使用。
どじょう掬いまんじゅうエール
人気土産「どじょう掬いまんじゅう」規格外品を使用。フルーティーさとスパーシーさを両立しています。
YAKUMO クラフトビール
国鉄カラーの特急列車「やくも」をイメージした一本。鉄道ファンならずとも飲んだ後、飾っておきたくなります。
■ 買えるお店
ファミリーマート玉造温泉店(松江市)
≫シャミネ松江店内 おみやげ楽市(松江市)
≫シャミネ松江店内 鷦鷯屋(松江市)
■ 飲めるお店
≫Izumo Brewing co.(出雲市)
〒690-1401 松江市八束町江島1128-110
TEL:050-5217-5505
[営業時間]9:00~17:00
[定休日]月・日曜、祝日、大型連休
≫公式サイト
クラフトビールとひと口に言っても、ブルワリーごとで味も、モットーもまるで違います。それだけに、ブルワリーを点々と巡るだけで、その土地の文化や風土にふれられるのも魅力。
“あのビールを買いたい!”もいいけれど、つくり手と会話を楽しみながら、旅するのもおすすめです。旅の思い出に買って、飲んで、お話して、とっても味わい深い島根旅を!