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日本遺産の神楽産業 神楽ショップくわの木を訪問

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2024年03月25日 公開

石見神楽の華ともいえる「衣裳」。金糸銀糸で彩られた刺繍はとても重厚で、石見神楽を初めて見る人にとって、あっと驚くような豪華絢爛なもの。
今回は、浜田市で障がい者就労施設として神楽産業全般および、石見神楽道具やグッズなどを取り扱う「神楽ショップくわの木」を訪れ、その豪華絢爛な衣裳づくりを中心に見学させていただきました。(2021年11月取材)

衣裳工房見学

広い工房内で、黙々と作業され作られる神楽衣裳は、黒い別珍(べっちん)と呼ばれる生地を台に張り、図案者の指示の元、縫い子達が黙々と縫い上げる、全てが手仕事によるものです。
ピンッと張られた生地を通す、針の音・糸の音が、静けさの中に響き渡る製作現場は、モノの生まれる場所としてとても興味深く、胸の高まる思いがします。この日作業されていた衣裳は、「水干(すいかん)」の修復作業。水干は天皇など、位の高い神様が石見神楽で身にまとうものです。ギラリと睨み付けるような龍や、虎などの刺繍が象徴的で、インパクト大! これらは生き物と呼ばれ、模様などの土台となる刺繍とは別の台で、専属の技術者により作られます。この衣裳を仕上げるのにどれくらいの日数がかかるのだろう。神楽上演で見るこの衣裳はどのように見えるのだろう・・・、作業風景を見つめながら想像が膨らみます。

衣裳で使われる生き物やモチーフ

衣裳には迫力ある龍や虎などの生き物のほか、花や葉などの植物、波や川・滝などの自然、炎や宝珠、渦や雷など様々なモチーフがあり、それらを組み合わせて衣裳が作られます。
神様の衣裳には植物や自然の模様が多く取り込まれ、鬼や悪には炎やコウモリ・蜘蛛など、怖さを象徴する模様が多く取り込まれます。演目によっても衣裳のモチーフは異なり、例えば「天神」では主人公である菅原道真の愛する梅の花があしらわれ、「八十神」で登場する出雲の神・大国主命の衣裳には兎(うさぎ)があしらわれます(因幡の白兎にちなんだものです)。これら、演目のストーリーや、登場人物の背景、波に千鳥などの縁起物、そして龍や虎・獅子などの生き物と、様々な要素が組み合わさり、その神楽団体に一つの作品として創作される刺繍衣裳は、石見神楽にとって重要な一角を担う神楽産業です。

蛇胴製作

神楽ショップくわの木では、演目「大蛇」で使用する蛇胴も製作しています。
蛇胴は昭和50年頃から、いわみ福祉会が一番最初に取り組んだ神楽産業で、何度も失敗を繰り返しながら試行錯誤をして取り組んでこられたそう。今では神楽団体の様々なニーズに応じ、研究してきた糧を活かし、神楽産業として継承をしています。この施設に勤められる皆さんの手仕事で、一日一日コツコツと丁寧に製作されています。
筒状の蛇胴一式となるパーツを見せていただきましたが、これがあのリアルな動きをする大蛇となることを想像すると、「蛇胴」を生み出す技術者の研究心と、舞い手の皆さんの演技力に感服するばかりです。

ショップを見学!

「普段見ることの出来ない、石見神楽の道具あれこれを見てみたい!」
そんな思いを叶えてくれるのが、この神楽ショップ。店内に入るとズラリと並ぶ神楽道具や、面・衣裳。ここにある商品は全て、石見神楽団体の皆さんが実際に身に付けるもので、ショップ購入することができます。石見随一の“石見神楽道具の百貨店”と言ってもよいでしょう。(“石見神楽ショップ”と銘打つ由縁を感じます)

店内にズラリと並ぶ神楽用品

一際興味深く目を引くのが「石見神楽面」。和紙を張り子の技法で、活発な動作の多い石見神楽に適するよう浜田で発案された、「衣裳」「蛇胴」に並ぶ石見神楽三大産業の一つです。神楽ショップでは、 同市の代表的な工房「柿田勝郎面工房」をはじめとする神楽面の販売を神楽団体向けに行っています。
その対面には、洋服で例えるとベルトの役割をするカラフルな「化粧帯」や、舞子の日用品「足袋」、「扇子」などの採物、「笛」「手拍子」などの奏楽道具などがズラリと並びます。額に入った衣裳の「生き物」をモチーフにした作品も印象的です。

まるで石見神楽の博物館

見る物、目にする物全てが興味津々! 扱っているものは和装で古代的で、それなのに斬新で、石見神楽の楽屋に入れてもらわないと決して見ることができないものが沢山。一般の方にとっては博物館に来ているように感じる空間です。
ショーケースには、豪華な刺繍衣裳がレイアウトされ、その中でも精巧な作りの陣羽織には思わず息を呑みます。そして何といっても石見神楽の華である衣裳工房を見学できることが、旅から帰って、みんなに自慢できる土産話となることでしょう。施設外観はとてもオシャレで、全面ガラス張り。外からも衣裳や蛇胴工房を眺めることができます。傍らには、ユニークな「石見神楽自動販売機」、ぜひコインを入れてみてください。方言でしゃべりかけてくれます!
(神楽ショップくわの木は、「湯屋温泉リフレパークきんたの里」横にあり、温泉&宿泊のお供に最適。敷地内には美味しいパン&洋食屋さん「プチマタン」も。)

リフレパークきんたの里

緑と笑顔があふれるリフレッシュパーク

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パンとカフェ プチマタン

地元の素材を活かしたおいしいパンや、ふわふわ卵のオムライスのランチを楽しんで♪

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Column

お土産に最適な玩具面

気軽に購入できる玩具面や神楽道具、神楽グッズなども、神楽ショップくわの木、オリジナル開発の商品が沢山あります。大黒様や、恵比須様、鍾馗の面など、玩具面は種類豊富。お土産にオススメです!

福祉施設としての取組み

いわみ福祉会神楽ショップくわの木は、「地域の必要性に応じたい」「地域のつながりを大切にしたい」という理念のもと、1975年から『蛇胴』作りに挑戦を始めたのが事業の始まりです。試行錯誤のうえ、様々な苦労を積み重ね、『蛇胴』『衣裳』『面』と浜田に伝わる神楽産業を学びながら、利用者・職員一丸となって取り組み、現在の姿があります。
社会福祉法人いわみ福祉会として、障がい者の皆さんに「仕事にプライドを持つこと」「自分たちの手で伝統を守り地域を豊かにすること」を実践するため、それぞれの作業に利用者さん一人一人が持ち場を持つことで、それぞれの工房でモノづくりの連携が生まれ、事業と自立支援の双方が成り立っています。

いわみ福祉会 石見神楽事業の紹介

〈神楽ショップくわの木〉
「リフレパークきんたの里」敷地内にあり、各種神楽道具や衣裳・蛇胴づくりなどを見学することもできる、ショップと観光見学を兼ねた施設。工房と展示場を兼ねた、神楽団体の皆さんや、観光客の皆さんの総合的な入口となる場所です。

〈佐野神楽工房〉
多くの利用者さんや職員が常駐し、日々多くの衣裳や蛇胴づくりなど行われる、神楽ショップくわの木の「工房の要」といえる施設。注文に応じた様々な神楽衣裳、鎧などの製作や修理が行われています。
蛇胴や、悪役が頭につける「ガッソウ」などの製作も行われています。

〈エクス和紙の館〉
広島との県境、波佐にある施設。和紙の原料、楮(こうぞ)から育てた上での和紙漉きがここでは行われ、その和紙を用いた玩具面や飾り面、蛇頭(じゃがしら)などの製作が日々利用者と職員により行われています。
小さなお土産用のグッズや、手作業による紙布織りなど工芸品も作られる工房です。申し込めば、紙漉きや神楽面の絵付け体験もすることができます。(隣接する浜田市金城民俗資料館には、古来の和紙づくりの道具など100点以上展示〈入館料あり〉)

〈石見神楽団体:いわみ福祉会芸能クラブ〉
幼い頃から親しんできた伝統芸能である石見神楽を、障がい者と職員が共に舞い共に喜び合うことで地域貢献することを目的に1985年に結成。近隣の神楽団体の指導者のもと地道に活動を続け、近年ではオーストラリアやフランスでの公演、総理官邸での「障がい者の集い」などに出演し、石見神楽を披露しました。

神楽ショップくわの木

石見神楽最大規模の衣裳工房

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エクス和紙の館

原料栽培から制作までを行う神楽工房

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石見神楽とは

賑やかで哀愁漂うお囃子の中で、豪華絢爛な衣裳を身にまとい演…

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Column

グループリーダー佐々木さんにお話をお聞きしました

今回、「神楽ショップくわの木」をナビゲートしてくださった、グループリーダーを務める佐々木満さん。利用者さんや職員のマネジメント、神楽団体など取引先はもちろん、観光者の皆さんの窓口にもなっておられ、ショップ全体を運営しておられます。そんな佐々木さんに、お話をお聞きしました。
『長く続くコロナ禍の中、石見神楽のイベントはもとより、要である神社での奉納神楽も無くなってしまい、石見地域全体がすっかり静かになり、とても寂しい思いをしている。“石見神楽は地域に根付いたもので、祭りと共にある、石見にとっての架け橋のような存在。” 今後アフターコロナに向け、賑やかな笛太鼓の鳴り響く石見地域を取り戻すため、観る人・舞う人が元気で活き活きと盛り上がれるようモノ作りを通して、神楽団体のお役に立てるよう取り組みたい。歴史と伝統はなくなるものではない。』
と今後の展望と思いを聞かせて頂きました。

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