2024年03月25日 公開
浜田市で生まれた『石見神楽面』の技術を大田市温泉津町の工房で継承する小林工房(代表 小林泰三さん)を訪れ、お話を伺いました。また、面の彩色ワークショップにも挑戦しました。(2020年8月22日取材)
最初に案内していただいたのは、工房に入ってすぐの応接ギャラリーです。たくさんの神楽面がショーケースに飾られ、背景の赤地によく映えています。神楽で使用される神楽団体用の“舞面”や、子どもの玩具となる“童面”、大きさが手のひらほどのグッズ用の“ミニ面”などが飾られており、眺めているだけでもワクワクします。反対の壁には、贈答で使われる“飾り面”が飾ってあり、様々な面に圧倒される空間です。
実際に手に取って見せていただいた、ミニ面の細かな作業には驚きでした。舞面と製造工程や材料は同じですが、それより数倍小さなミニ面はその分技術が求められる繊細な作品です。お土産として持ち帰られる方のお声や気持ちに沿ったことから生まれたのだそうです。
この部屋は壁の一部が蔵の外壁をそのまま活かした内装になっており、とても趣深いスペースです。この奥の工房全体も蔵の面影が随所に残っており、どこか昔の日本っぽさを感じる空間でした。
小林さんの『彩色(面に色を入れる作業)』の様子を見学させて頂きました(一筆一筆の慎重な加筆、その姿に、私たちも息を潜めながら・・・)。子どもの頃出会った、一つの絵本をきっかけに面づくりを志した小林さん。数々の経験を積み重ねながら温泉津の地に工房を構えられています。
今、復元を依頼されている、この面は、昔の職人さんが丹精込めて作ったもので、随所にその仕事の良さが表れ、感心する。小林さんも自分が制作した面が後世に残った時、同じように「いい仕事してる!」と後世の職人に思われるような面を作りたいと、思いを語られました。小林さんが一筆一筆丁寧に描いた面には、細やかな気づかいが見えてきます。
復元面の作業は、古(いにしえ)の面師からまさに技術の伝授を受ける作業のように見えました。その中から、小林さんの引き出しがたくさん増えていくのだと実感しました。
今回の取材で担当が特に気になっていた、面の絵付け体験をさせて頂きました。工房の奥にある作業場に案内して頂き、いよいよスタートです。はじめに、胡粉(貝殻から作られた白色の顔料)まで塗られた、鬼・般若・神・恵比須の面の中から般若を選びました!
小林さんから筆の使い方や運び方などを教わり、ついに筆を入れます! 最初の一筆目はやはり緊張します。同じ色でも濃さを変え柔らかさや、強さを表現するよう教えてもらい、慎重に慎重に筆を進めていきます。そしていよいよ一番手が震えた“瞳”に入ります。瞳を書き入れると、一気に面の勢いが出る感じがしました。
作っているうちに愛着が湧いてきて、アイラインを少し長めに。。。口元を。。。など、オリジナリティーを出して工夫できるので自分だけの面が出来上がります! 終盤にさしかかり、くま取りや牙などを塗っていき、最後はニスで仕上げて完成 !! 小林さんの丁寧な指導のお陰で、担当も面の絵付けを仕上げることができました。担当は“神楽好き”もあって、本物に近い絵付けにチャレンジしましたが、小林さんは「自由な表現でやってもいいよ」とおっしゃってくださいました。きっとあなただけの一枚が出来ると思いますので、機会があればぜひ体験してみてください。
(絵付けは有料となります。ホームページよりご確認ください)
小林さんの新たな取り組みのひとつでもある『壁画』。石見神楽面の技術を用いた『石州和紙での造形作品』に、取り組んでおられました。
この日見せて頂いた、制作中の迫力の『八岐大蛇』の壁画は、躍動感で溢れていて、和紙で作られたものと思えないような、ダイナミックかつ細やかな造形となっていました。作品を通して石州和紙の魅力を知ってほしいとの思いで壁画を始められた小林さん。「面の技法から多くの可能性を広げたい、発展させたい」という大きな想いが込められた作品です。
石見から発信する『日本の技術』。これからも小林さんから目が離せません。(取材当時制作中)