2025年02月14日 公開
歴代の天皇に伝わる宝物として2600年以上受け継がれている「三種の神器」のひとつ、勾玉(まがたま)。神話のふるさと島根県出雲地方は、古代より勾玉の生産が盛んな土地であり、周辺の遺跡からも多く発掘されています。
その独特の形状と象徴性は、時代を超えて脈々と受け継がれ、特に関連が深いとされる松江市の玉造は、勾玉を知るうえで重要な場所です。
今回は勾玉の神秘的な魅力を歴史から読み解くとともに、お土産にもうれしい勾玉作り体験、勾玉にまつわるスポットやショップをご紹介します。
島根県内各地でお土産として目にする勾玉。けれど「勾玉って何?」、「島根との関係は?」と疑問に思う方も多いでしょう。そこで、玉造温泉街近くにある「出雲玉作資料館」の展示を通して、まずは勾玉のキホンをご紹介。
古代の日本では、C字形の「勾玉」だけでなく、円筒形の「管玉」やそろばん珠のような「算盤玉」など、さまざまな形状の玉が存在しました。これらは総称して『玉』と呼ばれ、御守りや宝物としての意味があり、古代人にとっての装飾品でした。また、祭祀や神聖な儀式などで身に付けられることも多く、貴重な材料が使用された勾玉は、位の高い人や特別な地位を示す意味があったとされています。
【写真右】菅田薬師山古墳出土めのう製勾玉(松江市所蔵)
「C」字形をした特徴的なデザインの勾玉。縄文時代からすでに使用されていたことが分かっており、クマやイノシシの牙で作った飾りを石に写したものが起源だとする説が有力です。そのほかにも、形が似ていることから、人間の胎児を模した説や三日月を模した説など諸説あり。
また、出土した地域や年代によって、背中合わせになった勾玉や子持ち勾玉といった多様な形状が見られます。
これらの勾玉は「生命」や「再生」、「神聖な力」などに結びつけられ、神秘的な存在として崇められてきました。
【写真右下】松江市金崎古墳出土碧玉製勾玉(島根大学法文学部考古学研究室所蔵)
旧石器時代の終わりごろから玉が登場し、古墳時代にはその生産が盛んになりました。古代の出雲地方においては、弥生時代に玉作りが始まります。
出雲玉作資料館がある「玉造」という地名は、その名の通り古くから玉作りが盛んだったことに由来しています。松江市玉湯町玉造の花仙山(かせんざん)では、堅くてキメの細かい良質な青めのう、緑色が強い碧玉(へきぎょく)*1 が安定的に採れることが判明し、それ以降は、平安時代まで玉造を中心として一大産地に発展。町内に30ヶ所以上の玉作遺跡が密集していることからも、当時の繁栄ぶりがうかがえます。
*1 碧玉は別名「出雲石」とも呼ばれる貴重な石
資料館では、勾玉の歴史的な背景や制作工程など、玉作りと島根の関わりについて深く学ぶことができます。また、近くには「出雲玉作史跡公園」があり、貴重な遺跡(国指定史跡)を保存し一般公開しています。
奈良時代になると、勾玉は神様を祀るために使われるようになりました。奈良時代に編纂された「古事記」の中でも「勾玉」にまつわる神話が登場し、その歴史の深さがうかがえます。
現代における勾玉は、皇位とともに伝わるべき由緒ある物であり、令和元年5月には「三種の神器」(*2 八尺瓊勾玉、八咫鏡、草薙の剣)が新たな天皇に受け渡される儀式等が執り行われ話題になりました。
*2 八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)、八咫鏡(やたのかがみ)、草薙の剣(くさなぎのつるぎ)
【写真】株式会社めのやで製作された美保岐玉
勾玉作りの伝統は今も受け継がれ、玉造にある株式会社めのやが製作した「美保岐玉(みほぎだま)」は、出雲国造(出雲大社の宮司)が新任する際に奉納されました。玉の色にはそれぞれ意味があり、白い玉には白髪になるまで長命でありますように、赤い玉には血色よく健康でありますようにと願いが込められ、青い玉は新緑の緑を表した命の源の象徴とされます。
花仙山の麓にある玉造温泉街には、「出雲国風土記」にも記される古社、玉作湯(たまつくりゆ)神社が鎮座し、温泉と勾玉の神様が祀られています。
神話によれば、スサノオノミコトがヤマタノオロチを退治したご褒美に、玉作湯神社の神様から授けられたのが「勾玉」と言われており、後にスサノオの姉神である天照大神に献上したことが「三種の神器」となった由来です。
この神社には、山から出てきたと伝わる真ん丸の石が祀られており、「願い石」として信仰されています。この石の隣には青めのうの原石も祀られ、古代からここで勾玉作りの成功が祈願されてきたと言い伝えられています。神社境内は国指定史跡の玉作り遺跡であり、収蔵庫には周辺で出土した玉類、砥石、古代のガラスなどが納められています。
弥生時代から始まった出雲地方の玉作りですが、平安時代で一度は途絶。その後、江戸時代末期に、めのう細工の産地・若狭国(現在の福井県)で、技術を習得した地元出身の伊藤仙右衛門によって再興されます。以降は古代の玉作りから、工芸品の「出雲めのう細工」として生まれ変わり、出雲地方における勾玉作りの新たな歴史がスタート。現在では「しまねの伝統工芸」を代表する工芸品として、大切に技術と伝統が受け継がれています。
島根を訪れた際には、その歴史に思いを馳せながら「勾玉」の魅力にぜひふれてみてください。
松江市・出雲市周辺には、「出雲玉作資料館」のほかにも勾玉の歴史や文化を紹介する博物館や史跡があります。これらのスポットを巡ることで、よりいっそう島根の歴史文化の魅力にふれられますよ。
旅の思い出に世界でひとつの勾玉を作りませんか?アクセサリーショップや手作り工房だけでなく、博物館でも制作体験を実施しています。今回はその中から、勾玉ゆかりの地、玉造温泉にある「めのうやしんぐう」の手作り体験をピックアップ。同店は出雲まがたま細工の技術を継承し、今なお皇室にも勾玉を献上する老舗。古代のパワーストーンの神髄にふれられるかもしれません。
「めのうやしんぐう」で体験できる勾玉作り体験は、「再生こはく」と呼ばれる石を磨く90分コース、「ろう石」を使う30分・60分コースがあります。特に加工が容易な「ろう石」を使ったコースが人気。「ろう石」は天然石の中でもっともやわらかく、子どもでも簡単に加工ができます。
「ろう石」を使ったコースでは、最初に紙やすりで石の角を削った後、目の細かい紙やすりで表面を削ってスベスベにしていきます。その後、勾玉を水で濡らしながら、耐水ペーパーでゴシゴシ。仕上げにワックスを薄く塗り、光沢が出るまで磨いたら完成です。30分コースの場合、ある程度形が整った状態からスタートできるため、時間に余裕がない方はこちらがおすすめ。
よりアクセサリーの美しさを求めるなら「再生こはく」の90分コースをぜひ。「ろう石」に比べ、少し手間ひまかかるもの、仕上がりの形が選べることもあって本格志向の方から評判。旅の良い思い出になること間違いなしです。
〒699-0201 松江市玉湯町玉造325[MAP]
TEL:0852-62-0734
営業時間:9:00~17:00(勾玉作り体験は、16:00最終受付)
定休日:なし(天候・店舗メンテナンスにより臨時休業の場合あり)
料金:ろう石の勾玉手づくり体験 1,540円~、再生こはくの勾玉手づくり体験 2,530円~
松江城や玉造温泉、出雲大社といった主要観光地の周辺には、勾玉や天然石、パワーストーンなどを取り扱うショップが多くあります。カジュアルなデザインから正統派まで、バリエーションの幅広さも魅力。歴史あるお守りとしてお土産にも人気があります。
松江市・玉造温泉周辺
2024年にリニューアルした観光拠点「カラコロ工房」に隣接。出雲めのう細工の勾玉・アクセサリーをはじめ、世界各国の天然石が揃います。天然石と勾玉を組み合わせて作るオリジナルストラップ、ブレスレット作りが好評。
140年以上の歴史を持つ老舗の天然石専門店。国宝・松江城の目の前に位置し、店内入口では約3000個の水晶玉がお出迎えします。出雲特産青めのう(出雲石)の勾玉をはじめ、各種天然石の工芸品からアクセサリーまで多数取り揃えています。
明治34年の創業から現在まで、「出雲めのう細工」を継承する名店。店内には加工に使われる道具の展示、工程の紹介コーナーも。職人の妙技を間近で見学できる数少ないお店です。
〒699-0201 松江市玉湯町玉造325[MAP]
TEL:0852-62-0734
営業時間:9:00~17:00(勾玉づくり体験は16:00最終受付)
定休日:なし(天候・店舗メンテナンスにより臨時休業の場合あり)
玉造温泉街のショップでは、勾玉を現代スタイルにアレンジしたアクセサリーが評判です。「玉作湯神社」からもほど近く、購入した勾玉を持参して参拝するのがおすすめ。
出雲市・出雲大社周辺
尾がふっくらとして丸みを帯びた「出雲型勾玉」が一番人気。さまざまな勾玉アクセサリーや縁結びのうさぎグッズ、世界各地の原石が並びます。店内にある世界一大きな水晶製勾玉も必見。
出雲大社の入口「勢溜の大鳥居」のすぐそばにある天然石専門店。140年以上の歴史を持ち、出雲特産青めのう(出雲石)の勾玉、天然石の工芸品やアクセサリーを種類豊富に取り揃え。建物2階には姉妹店「ヤオヨロズキセキ」があります。
パワーストーン専門店で、「めのうの店川島 出雲店」が入居する建物2階にあります。色とりどりの天然石で作ったアクセサリー、個性的な鉱物の原石がそこかしこにずらり。自分用はもちろん、大切な人へのプレゼントにもぴったりです。
イチオシはアクセサリーのオーダーメイド。好みの石や仕上がりを伝えれば、1時間ほどでスタッフが世界にひとつのブレスレットやピアス、チョーカーなどを制作してくれます。
「出雲大社」門前にある複合施設「ご縁横丁」内のショップ。アクセサリーのオーダーメイドが可能です。勾玉や「縁結びうさぎ」といった商品のほかに、かわいい御朱印帳やおみくじ帖もおすすめ。
出雲地方の方言で「いい具合」を意味する店名通り、県内各地のハイセンスなお土産や勾玉、自社オリジナル雑貨などをディスプレイ。特にうさぎグッズが人気で、中でもうさぎのおみくじが評判です。
「出雲玉作資料館」がある玉造温泉街は、全国有数の美肌の湯としても知られる観光地。「玉造」の地名通り、街中には勾玉をモチーフにしたものが多数あります。古代のロマンを感じさせる温泉街の風景の中で、勾玉の神秘にふれ、温泉の恵みで心身ともにリフレッシュしましょう。
玉造温泉街のシンボルはもちろん勾玉。橋、マンホール、建物、お店のロゴなど街の景観に溶け込んでいる勾玉を見つけた時は「あっ!ここにも!」と、楽しい気持ちになります。玉造温泉に来た記念に、勾玉と一緒に写真を撮ってみませんか?
温泉街を流れる玉湯川に架かる「勾玉橋」。玉造温泉で一番大きい勾玉です。
玉湯川の足湯のすぐ近くにある勾玉の形をした小島「しあわせ青めのう」。中心の石は青めのうの原石。触ると幸運が訪れると言われる人気スポットです。
「玉造アートボックス」近くの「キラキラ橋」にはハート型のガラスの勾玉がはめ込まれています。橋全体が漆喰アーティストによる作品でもあります。
温泉街のマンホールもよく見ると勾玉模様。
夜になると温泉街をほのかに照らす灯籠は、月を勾玉に見立てた影絵がデザインされています。